携帯情報端末利用時の姿勢変化について

DOI
  • 島田 真衣
    国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科
  • 松田 真季
    国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科
  • 藤江 亮太
    国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科
  • 野村 悟
    国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科
  • 粟飯島 辰樹
    国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科
  • 藤井 菜穂子
    国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科

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抄録

【はじめに,目的】厚生労働省よるとVDT(Visual Display Terminals)作業者の7割以上が首・肩のこりや痛みを感じていると報告し,それらの労働衛生管理上の問題点を指摘している。また昨今,携帯情報端末が急速に進歩・普及し,携帯やスマートフォンは日常生活に欠かせないものとなっている。携帯情報端末が身体・精神機能に及ぼす影響は少なくないと思われるが,それらについてほとんど報告されていない現状である。そこで今回我々は,姿勢への影響に着目し,携帯とスマートフォン利用時の写真撮影による画像および脊柱形状分析器を用いた姿勢評価を行い検討した。【方法】1.対象被験者は健常成人男性9名(平均19.9±0.78歳 平均身長170.7±7.38cm平均体重65.7±8.11kg平均座高92.5±3.86cm)で,携帯・スマートフォンともに使用歴のある者とした。2.方法1)計測環境と条件設定被験者は座位となり,膝関節90°屈曲位,体幹回旋0°で下腿後面を椅子の端と密着させた。足部は肩幅に開き足底全面接地とした。上半身裸で下半身はスパッツを着用し,骨指標にマーカー(耳垂,C7棘突起,肩峰,上前腸骨棘,上後腸骨棘,S3棘突起,大転子)を貼付した。デジタルカメラ(EX-Z800:CASIO)は被験者から115cm離れた場所に設置し,基準線をともに撮影した。上記姿勢を保持後,以下4条件を行った。・被験者は操作端末を持たず真っ直ぐだと思う任意の点を見つめる。(通常姿勢)・携帯を片手で操作し課題を行う。(携帯)・スマートフォンを片手で操作し課題を行う。(スマホ片手)・スマートフォンを両手で操作し課題を行う。(スマホ両手)課題は「自己紹介文を打つこと」とした。操作端末として,携帯(W51T/約103×51×21mm/142g),スマートフォン(iPhone4S/115.2×58.6×9.3mm/140g)を用いた。2)計測手順上記4条件を安定して遂行していることを確認後,矢状面から写真撮影し,その後,脊柱計測分析器(スパイナルマウス:Index社製)を用いてC7~S3棘突起側部の筋膨隆部をなぞることで,脊柱・骨盤のデータを採取した。撮影した写真よりソフト(計測シートforデジカメ写真)を用い以下の①~④,スパイナルマウスより以下の⑤~⑦のデータを得た。①頭部屈曲角度(耳垂-外眼角点を結ぶ線と水平線のなす角度)②頸部屈曲角度(水平線と肩峰点-耳垂を結んだ線のなす角度)③画面角度(携帯情報端末の画面と水平線のなす角度)④画面と座面との距離(携帯情報端末の上端と座面との距離)⑤骨盤傾斜角度胸椎後弯角度腰椎後弯角度【倫理的配慮,説明と同意】被験者には本研究の目的と方法を説明し研究協力の賛同を得た。本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した。(承認番号13-Io-110)【結果】頭部屈曲角度(①)および頸部屈曲角度(②)は,片手操作である「携帯」および「スマホ片手」よりも両手操作である「スマホ両手」で有意に低値を示し,頭頸部をより屈曲していた。画面角度(③)は,「携帯」,「スマホ片手」,「スマホ両手」の順に有意に減少し(p<0.01),画面をより水平位に保持していた。画面と座面との距離(④)は,片手操作である「携帯」および「スマホ片手」よりも両手操作である「スマホ両手」で有意に低値を示し(p<0.05),操作端末が座面へ近づいていた。骨盤傾斜角度(⑤)は,「携帯」より「スマホ両手」で有意に減少し後傾していた(p<0.05)。胸椎後弯角度(⑥)は,「携帯」より「スマホ片手」で有意に増大し後弯していた(p<0.05)。【考察】携帯情報端末利用時の空間内における操作端末の位置は,「片手操作」よりも「両手操作」で,より座面に近く水平位に保持していたことがわかった。それに伴い「両手操作」では,頭・頸部をより屈曲しており,操作端末の位置が姿勢に影響を及ぼしていることが示唆された。骨盤と胸椎において,「携帯」よりも「スマートフォン」操作で骨盤をより後傾し,脊柱は円背する傾向を示すことがわかった。本研究から,携帯情報端末利用による姿勢への影響の全体像をとらえることができた。今回は,被験者への自由度が高い状態で評価を行ったため,姿勢変化の詳細な影響因子を特定するまでに至らなかった。今後は,条件設定を検討するとともに,どのような因子が姿勢へ影響するかさらに特定する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究により,携帯情報端末利用時の姿勢変化が明らかとなった。現在,端末の小型化・軽量化が進み,タブレットや小型PCなどの普及とともに,いつでもどこでも長時間VDT作業を行える環境となっており,身体への影響は増大していると思われる。不良姿勢となる詳細な因子を特定し,そのリスクや疾患との関連性を検討することで,理学療法の立場から予防や治療につなげることができると考える。

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