人工膝関節置換術適用患者における前期高齢者群と後期高齢者群の術後機能の群間比較

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抄録

【はじめに】我が国では,平均寿命の延長と出生率の低下により,65歳以上の人口が増加の一途をたどり,2007年に高齢化率21%以上の超高齢社会を迎えた。近年,医療費の削減が課題とされており,長期入院の是正や健康増進計画などの政策が積極的に行われている。人工膝関節置換術後のリハビリテーションにおいては,適用年齢の高齢化が進んでいるため,クリニカルパスの導入などにより,入院期間の短縮に対する取り組みが行われている。しかしながら,年齢が高くなればなるほど,クリニカルパスから逸脱する症例を多く経験するため,年齢を考慮した検討が必要であると考える。よって,本研究は人工膝関節置換術適用患者における前期高齢者群と後期高齢者群の術後機能を比較・検討することを目的とした。【方法】対象は,2013年7月~2014年10月までの間に,多施設共同研究への参加協力が得られた全国6施設において,初回片側の人工膝関節置換術の適用になった患者127名を対象とした。そのうち,術後14日目の時点で杖歩行が困難な者を除いた72名(男性11名,女性61名 平均年齢75.6歳±6.1,平均BMI25.2±4.0)を本研究の分析対象とした。なお,本研究対象者は,前期高齢者群が28名,後期高齢者群が44名であった。調査項目はTime up & Go test(TUG)・術側膝伸展筋力・非術側膝伸展筋力・術側膝屈曲筋力・非術側膝屈曲筋力とし,術前と術後14日目(術後)に計測を行った。統計解析は,前期高齢者群と後期高齢者群の基本属性(性別・BMI),術前機能(TUG・筋力)の関係を明らかにするために,性別についてはχ2検定,BMI・術前TUG・術前筋力については,2標本t検定を用いて群間比較を行った。また,2群の術後機能(TUG・筋力)を明らかにするために,2標本t検定を用いて群間比較を行った。統計ソフトは,IBM SPSS Statistics 22を使用し,有意水準は両側5%とした。【結果】前期高齢者群と後期高齢者群の基本属性(性別・BMI),術前機能(TUG・術側膝伸展筋力・非術側膝伸展筋力・術側膝屈曲筋力・非術側膝屈曲筋力)を比較した結果,有意差は認められなかった。2群の術後機能(TUG・術側膝伸展筋力・非術側膝伸展筋力・術側膝屈曲筋力・非術側膝屈曲筋力)を比較した結果,TUG(p=0.020),非術側膝伸展筋力(p=0.031),非術側膝屈曲筋力(p=0.048)に有意差が認められた。術後TUGは前期高齢者群が13.0±3.2秒,後期高齢者群が15.4±4.6秒であり,後期高齢者群が有意に遅延していた。また,術後非術側膝伸展筋力は前期高齢者群が0.93±0.32Nm/kg,後期高齢者群が0.78±0.23Nm/kg,術後非術側膝屈曲筋力は前期高齢者群が0.51±0.21Nm/kg,後期高齢者群が0.42±0.14 Nm/kgであり,後期高齢者群が有意に低下していた。【考察】前期高齢者群に比較して,後期高齢者群では術後14日目の非術側膝伸展筋力と非術側膝屈曲筋力が有意に低下していたことから,人工膝関節置換術適用患者の後期高齢者に対する理学療法では,術側の管理だけではなく,非術側に対しても積極的な介入を行う必要性が示唆された。また,後期高齢者群の術後TUGが有意な低値を示したことから,術後の機能的移動能力の回復が遅延するため,後期高齢者群では入院期間の延長に影響を与える可能性があることが示唆された。本研究の限界として,前期高齢者群と後期高齢者群との比較により得られた結果であるため,65歳以下の人工膝関節置換術適用患者について言及することはできない。また,調査期間を術前と術後14日目に設定しているため,術後14日目以降の機能回復過程については不明であることが挙げられる。今後の課題として,術後14日目以降の継続した調査を行うことが必要と考える。【理学療法としての意義】人工膝関節置換術適用患者において,クリニカルパスから逸脱する一要因として,年齢が関与している可能性がある。したがって,本研究結果は年齢を考慮した理学療法を実施するうえでの一助になると考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574411136
  • NII論文ID
    130005248464
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.0746
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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