骨格筋量の加齢変化

DOI
  • 山田 実
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 青山 朋樹
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 荒井 秀典
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

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説明

【はじめに,目的】本邦でのサルコペニア(加齢に伴う筋量減少症)の有症率は約20%であり,自立した日常生活を阻害する要因となっている。欧米諸国の報告によると,骨格筋量は50歳から79歳にかけて6.6-23.3%減少するとされているが,アジア人を対象としたそのような骨格筋量の加齢変化を検討した報告はない。そこで本研究では,40歳から79歳までの38,039名の日本人を対象に,横断的に骨格筋量を計測しその加齢変化を検証した。【方法】対象はフィットネスセンターやコミュニティーセンター等に来場し,歩行が自立している40-79歳までの男性16,379名,女性21,660名であった。なお,正常な加齢変化を検証することが目的となるため,特筆すべき疾患を有する者は除外した。対象者には,バイオインピーダンス法による体組成計測を実施した(Inbody 720,Biospace製)。得られたデータより,四肢筋量を身長の二乗で除した値(SMI:skeletal muscle mass index,kg/m2),上肢筋量を身長の二乗で除した値(arm-SMI,kg/m2),それに下肢筋量を身長の二乗で除した値(leg-SMI,kg/m2)を算出した。対象者は男女別に40歳から5歳刻みに8つのカテゴリーの分類し,一元配置分散分析を用いてSMIの加齢変化を検証した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を受けて実施したものである。【結果】各年代の対象者数は40-44歳(男性3,697名,女性3,828名),45-49歳(男性3,151名,女性3,686名),50-54歳(男性2,202名,女性3,597名),55-59歳(男性1,952名,女性3,002名),60-64歳(男性2,274名,女性3,490名),65-69歳(男性1,683名,女性2,314名),70-74歳(男性1,030名,女性1,269名),それに75-79歳(男性390名,女性474名)であった。男性のSMIは40-44歳で8.20 kg/m2,45-49歳で8.11 kg/m2,50-54歳で8.11 kg/m2,55-59歳で7.98 kg/m2,60-64歳で7.84 kg/m2,65-69歳で7.64 kg/m2,70-74歳で7.59 kg/m2,それに75-79歳で7.32 kg/m2と加齢に伴い筋量は減少し(P<0.001),40-44歳と比べて75-79歳ではSMIが10.8%減少していた。女性のSMIは40-44歳で6.41 kg/m2,45-49歳で6.39 kg/m2,50-54歳で6.33 kg/m2,55-59歳で6.23 kg/m2,60-64歳で6.14 kg/m2,65-69歳で6.08 kg/m2,70-74歳で6.09 kg/m2,それに75-79歳で6.00 kg/m2と男性と同様に加齢に伴い筋量は減少し(P<0.001),40-44歳と比べて75-79歳ではSMIが6.4%減少していた。なお,arm-SMIでは40-44歳から75-79歳にかけて男性で12.6%,女性で4.1%減少し,leg-SMIでは男性で10.1%,女性で7.1%減少していた(P<0.001)。【考察】男女ともに40歳以降緩やかにSMIは減少し,特に65歳以降に減少率が大きくなっていた。SMIは40-44歳から75-79歳にかけて男性で10.8%,女性で6.4%減少しており,男性の方が加齢に伴って骨格筋量が減少しやすいことが分かった。このように骨格筋の加齢変化に性差が生じる要因は不明確であるものの,加齢に伴ってインスリン様成長因子(IGF-1)レベルが男性の方が低下しやすい,加齢に伴うテストステロン減少の影響を男性の方が受けやすいなどの影響が考えられた。【理学療法学研究としての意義】骨格筋量の加齢変化という基礎的情報は,様々な臨床場面および研究実施の上で重要な情報である。本研究によって,骨格筋量は40歳以降緩やかに減少し始め約35年間で約1割減少するというデータを示せたことは意義深い。しかし一方で,その要因等は明確になっておらず,今後は加齢変化,性差の要因などを検証しながら,有用なサルコペニア予防法を模索していく必要がある。

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