学生はPBLテュートリアルをどのように捉えているか

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  • ―計量テキスト分析による学生アンケートの検討―

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抄録

【はじめに,目的】平成14年のカリキュラム改訂以降,本学理学療法学科では専門科目への問題基盤型学習(Problem Based Learning;以下,PBL)を用いたテュートリアル教育を導入してきた。多くの専門科目で小グループ学習型の教育を取り入れており,1年次よりテュートリアル教育を経験する。本研究は,アンケート調査により,PBLテュートリアルの教育効果および問題点,さらに学生意識の変化を明らかにすることを目的とした。【方法】理学療法学科1~4年生167名を対象とし,アンケートの回収が得られた72名を分析対象とした(回収率:全体43.1%)。アンケート調査の時期は,各学年のPBLテュートリアルを導入している授業の終了後に実施した。アンケートは,「PBLテュートリアル形式の授業で感じたことを自由にお書きください」良かったこと,難しかったこと,講義形式との取り組みの違い等)。」といった自由記載形式とした。回収したアンケートをテキスト形式にデータ化し,語句の整理を行った後KH Coder 2.Xを用いて分析した。KH Coderは,内容分析の考え方を基盤にして開発された計量テキスト分析のためのフリーソフトウェアである。まず,アンケートのから抽出された出現回数8回以上の語句をWard法にてクラスター化した。次に,各学年の特徴語となる語句を抽出し,語句と語句の結びつきを示す共起ネットワークを作成し,学年の特徴を分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設倫理委員会の承認を得ており,研究協力者には本研究の目的およびデータの取り扱いについて説明した。研究への協力は自由意志に基づくものであり,アンケート用紙の回収箱への提出を以て,研究協力の同意を得たことを確認した。【結果】アンケートのテキストデータは,文章数370,語句数6154語からなり,591種類の語句が分析対象として抽出された。頻出8回以上の語句を対象にし,クラスター分析を行った結果,6つのクラスターに分類された。「PBLテュートリアルへの取り組み意識」「ディスカッションによる対人技能への影響」「学習意欲および学習効果の向上」「テューターの介入による学習促進」「グループ活動から感じる責任感」「グループ活動時間確保の難しさ」の6つ要因が抽出された。学年ごとのテキストデータ分析より,それぞれの特徴的な語句と,語句の結びつきより次のような特徴を抽出した。1年生では「人-意見-聞ける」「相手-伝える」「話し合う」といったディスクカッションによる対人技能,コミュニケーションに関連した語句が特徴語として挙げられた。また,「集まる-時間-合わせる」といったグループ活動時間確保の難しさを表した語句も抽出された。2年生では,「意欲-興味-取り組める」「責任-迷惑」といったPBLテュートリアルによる学習意欲と責任感を示す語句が挙げられた。一方,「激しい-差-偏り」といったグループ活動から生じる不満を表す語句がみられた。3・4年生では「自己学習」「疑問-自ら-調べる」といった自己学習や,「図書館」「文献」といった学習ツールに関する語句が挙げられ,主体的な学習への取り組みを表していた。「情報-共有-知識」といったグループ活動から他者との共有体験を得られたことが分かった。【考察】アンケートのテキスデータから抽出された6つのクラスターから,PBLテュートリアル教育の効果として考えられる学習意欲の向上,主体的・積極的な授業参加,対人技能・コミュニケーション能力の向上といった効果が得られていると考えられる。PBLテュートリアルの問題点として,授業時間外のグループ活動時間の確保が挙げられた。この点については授業時間内に時間を確保する,あるいはグループ活動が必要な科目の調整が必要だと考える。各学年のテキストデータの分析結果より,PBLテュートリアルを経験することで,それに対する意識も変化していると考えられる。1年生ではディスカッションしながら問題解決を進めるという授業形式に対し,新鮮さや面白さを感じている。3・4年生では,PBLテュートリアル形式の授業を通じて,自ら問題解決しようとする姿勢や自己学習への意識が形成されることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究より,PBLテュートリアル教育による学習意欲の向上,自己学習への意識の変化,対人技能への影響が確認された。本研究は横断的な分析ではあるが,PBLテュートリアルの経験を積むことで,学生の「学ぶこと」に対する意識の変化が示され,今後の理学療法教育への示唆を得ることができた。

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