学外評価実習前の症例検討グループワークで片麻痺体験装着を用いる意義

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抄録

【はじめに,目的】理学療法卒前教育では,3年次評価実習においてスムーズに進まないことがある。対策として臨床に即した形で患者を想定し,実習前指導を行うことが重要であると考えられる。第47回本学術大会において,評価実習前の症例検討グループワークで高齢者体験装具を用いて実施しその意義について報告した。今回は,評価実習前指導において,片麻痺体験装着(装具)を利用する意義について検討したので報告する。【方法】理学療法士養成大学3年生44名を対象とした。実習前指導は後期科目「理学療法評価学実習」に導入し,その後半月後に評価実習を迎える。3年生を8グループに分け脳血管障害後右片麻痺症例を紙面で情報を与え,理学療法評価を目的に症例検討グループワークを行った。装具を用い模擬患者を設定した症例検討の講義を4コマと,装具を用いずに模擬患者を設定した症例検討の講義を4コマの合計8コマを実施した。装具は,株式会社特殊衣料「まなび体片麻痺用」を用いた。グループワーク終了時に無記名留置き式アンケート調査を実施した。アンケート内容は症例検討を通して装具を用いる意義について選択式で尋ねた。さらに,「有意義であった」あるいは「有意義でなかった」理由について,自由記載で回答を求めた。選択式のデータは単純集計を行い,自由記載式データはK-J法でカテゴリー分類し単純集計を行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には書面で研究の目的と内容を説明し,同意を得て実施した。また,帝京科学大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】「症例検討全体を通して装具を用いる有益性」について,「有益である」は44名(100%)であり,理由は「片麻痺の姿勢や動きがわかりやすい」,「片麻痺をイメージしやすい」などであった。理学療法検査測定毎の結果では,「有益である」との回答が多かった項目は(70~80%),「四肢長」・「運動麻痺検査」・「バランス検査」・「姿勢分析」・「歩行分析」であった。理由は,「装具により四肢長差が再現されていた」・「片麻痺患者のバランス障害,動作異常,歩行異常がわかりやすかった」であった。「有益ではない」との回答が多かった項目は(70~80%),「問診」・「四肢周径」・「関節可動域検査」・「MMT」・「感覚検査」・「腱反射」・「筋緊張検査」であった。理由は,「装具装着はこれらの異常を再現するのに関係しない」・「装具は装着することによって装具が邪魔になり測定しづらい」であった。【考察】症例検討に装具を用いることは,有意義であるとの意見が得られた。健常者が装具を用いずに片麻痺患者を演じることは限界があると考えられる。装具を用いることで,片麻痺患者の身体的変化を再現しやすくなる。さらに,歩行などの動的な動作異常も評価しやすくなると考えられる。このことにより,臨床場面により近い患者設定ができ,理学療法評価を進める上で,充実したグループワークができたものと考えられた。測定項目別にみていくと,姿勢や動作観察など動的な評価場面では,装具装着の有用性が伺えた。しかしながら,「四肢周径差」・「腱反射異常」や「筋筋緊張異常」などは,装具装着でも再現することは困難であり,より臨床場面を想定するためには創意・工夫が必要である。今回,装具を評価実習前の症例検討グループワークに使用する意義について検討した。今後は,実際の評価実習において効果があるか否かを検討する必要があると考えられた。【理学療法研究としての意義】実習施設の確保が困難な昨今,実習の時間数の減少,実習形態の簡素化などの傾向がある。こうした問題の対策として,健常者を対象とした学内教育において,評価実習前指導に,片麻痺体験装具を用いることは臨床場面に近い状況で指導が可能であることが推察できた。

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