ロボットスーツの装着体験の有無が学習効果に差を生むか

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抄録

【はじめに,目的】本学では平成22年度より3年次必須科目「生活支援機器論」においてロボットスーツHAL®(Hybrid Assistive Limb)福祉用(以下,HAL)を用いた授業を行っており,その学習効果について昨年の本学会にて報告した。しかし,種々の要因により授業でHALの装着を体験できる学生は半分程度に限られてしまう。同一授業内で学習到達度に違いが生じることは学生の不利益にもつながり問題がある。そこでHAL装着体験の有無により,どの程度学習に違いが生じるのか検証作業を行ったので報告する。【方法】授業に参加した39名(うち20名がHAL装着を体験)に対し,授業後に自由記載のレポートの提出を課し,提出されたレポート(39名分;100%)について内容分析を行った。内容分析はBerelsonの内容分析の手法を参考にした。本研究では「HALの理学療法領域への貢献」に関連して記載された文章を抜粋したものを記録単位とし,意味内容の類似性に従い教員3名でカテゴリー化を行った。カテゴリー化の信頼性については他の2名の理学療法士にサブカテゴリーをカテゴリーに分類することを依頼し,一致度をκ係数を用い検討した。またHAL装着体験の有無によるカテゴリー毎の記録単位数の差の検討には対応のないt検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】レポート提出にあたり,本研究の内容と意義,匿名性の確保などについて口頭で説明し,すべての学生から同意を得た。【結果】レポート中に記載された「HALの理学療法領域への貢献」に関連すると思われる文章の総数は118となり,それらを記録単位として扱った。記録単位からは43のサブカテゴリーと7つのカテゴリーが分類された。第1カテゴリーは〈ADLの範囲を拡大する可能性がある〉〈自立動作や介護支援へ貢献できる〉など6つのサブカテゴリーから「ADLの向上や介護負担軽減への貢献」(記録単位数;装着体験有10:装着体験無4)と命名した。第2カテゴリーは〈QOLを向上させる可能性がある〉より「QOLの向上への貢献」(同;1:3)と命名した。第3カテゴリーは〈歩行を通じた刺激による神経再教育が期待できる〉〈機能回復を早める効果が期待できる〉など9つのサブカテゴリーから「神経や筋,その他の機能回復への貢献」(同;11:11)と命名した。第4カテゴリーは〈廃用症候群の防止や骨密度の維持に関する効果が期待できる〉など3つのサブカテゴリーから「廃用症候群の予防や改善への貢献」(同;6:2)と命名した。第5カテゴリーは〈歩行困難者の歩行獲得への効果が期待できる〉〈歩行困難者の歩行練習手段としての活用が期待できる〉など11のサブカテゴリーから「歩行機能の再獲得や向上に対する貢献」(同;16:18)と命名した。第6カテゴリーは〈家族や周囲の者のモチベーションを向上させる効果がある〉〈患者のリハビリテーション意欲を改善させる効果がある〉など5つのサブカテゴリーから「モチベーションや意欲など精神面の改善への貢献」(同;10:10)と命名した。第7カテゴリーは〈質の高い理学療法を提供できる可能性がある〉〈理学療法の効率を高める可能性が期待できる〉など7つのサブカテゴリーから「理学療法の質や効率の向上や新たなモデルの開発に対する貢献」(同;6:10)と命名した。カテゴリー化の信頼性を示すκ係数はそれぞれ0.86,0.83と十分な信頼性が確認された。HAL装着体験の有無によってそれぞれのカテゴリーの記録単位数には有意差は認められなかった。【考察】HALについては現在までに歩行能力に関して,歩容の改善や,支持性の改善,緊張の改善などが報告されており,学生はこれら現段階で明らかにされつつあるHALの効果について実感されたものと思われる。また歩行困難者の歩容の満足度はQOLと正の相関を示すことも明らかにされている。学生は精神機能面への効果についてもHALが影響をおよぼす可能性があることをレポート中に記載しており,身体機能面にとらわれず「HALの理学療法領域への貢献」を考えることができたと推察できる。本授業の行動目標は「HALの取り扱いを通じて最新の移動支援機器の操作を体験するとともに,HALの普及にあたり,使用目的,適応,リスク管理等について自らの考えを説明する」であり,ある程度の行動目標は達成できたものと考える。時間的要因やHAL本体の要因(サイズなど)などで全員がHALを装着体験することができないといった限られた条件下でも本授業がHAL装着体験の有無にかかわらず,等しく学習効果をもたらしていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本授業は理学療法教育の中でも先駆的な授業であり,様々な要因で限界がある中での授業ではあるが等しく学習効果が実証されたことは大きな意義を持つ。

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