大学生ボート選手における障害の実態調査と関連因子の検討
説明
【はじめに、目的】ボート競技における艇を漕ぐという動作は、優れた持久力と瞬発力、柔軟性が求められる全身運動であるが、ボート選手のトレーニングは非常にハードであることから、様々なスポーツ障害が発生する。特に発生率の高い障害部位は腰背部、肋骨、膝周囲などであり、ボート競技によって発生した障害のうち、膝周囲が29%、腰背部が22%、肋骨が9%であったことが報告されている。特に、日本では大学生から導入される左右非対称の動作を行うスイープ種目により、身体の左右バランスの変調が生じ、それによって障害が発生することも想定される。しかし、ボート競技者の身体的左右差と障害発生との関連についての検討はほとんどなされていない。本研究の目的は、1)日本国内の大学生ボート選手における障害の実態を調査すること、および、2)障害発生との関連因子を検討することである。【方法】本研究は全国の大学生ボート選手を対象にアンケートを実施し、その結果を解析する横断研究である。アンケートは、研究協力の了承を得た大学生ボート団体15チームに配布した。アンケートの内容は、年齢、性別、主な競技種目(スカルもしくはスイープ)、競技歴、2000mエルゴスコア、過去一年間の疼痛の有無(腰背部、肋骨、膝周囲)、主観的左右差(振り向き、脚長差、脚組み)、練習量、アップ・ダウンの有無・時間・内容とした。統計解析としては、各部位の疼痛発生を従属変数とし、各アンケート項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行い、各部位の疼痛発生に関与する危険因子を検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には直接紙面及び口頭で十分な説明を行い、同意を得て実施した。本研究は京都大学医の倫理委員会に承認されている。【結果】解析には、回答を得られた9チーム(183人分)のデータを用いた。選手の内訳は、男性132人(72%)、女性52人(28%)であり、主な競技種目の内訳は、スカル78人(43%)、スイープ106人(57%)であった。過去一年間の腰背部痛既往者は118人(65%)、肋骨痛既往者は、47人(25%)、膝周囲痛既往者は44人(24%)であった。ロジスティック回帰分析の結果、腰背部痛と肋骨痛において主観的脚長差の存在が有意な関連要因として抽出された。腰背部においては主観的脚長差が存在すると痛みが発生しており、肋骨においても同様の結果であった(腰背部痛:オッズ比 3.7, 95%CI :1.56-8.9, p<0.01、肋骨痛:オッズ比2.4, 95%CI: 1.0-5.3, p<0.05)。【考察】本研究の結果、腰背部痛が65%、肋骨痛、膝周囲痛がそれぞれ25%程度発生しており、先行研究と同様に日本国内の大学生においてもこの3部位の障害発生割合が高い現状が認められた。腰背部痛や肋骨痛の発生要因には練習量や内容、クールダウンの状況など様々な報告がなされているが、今回の解析では痛みの発生に関わりうるこれらの因子で調整してもなお、主観的脚長差の存在が痛みの有無に影響していることが明らかとなった。ボート競技は主に、下肢で生み出した力を体幹、上肢へと伝達させることで艇を動かしているので、主観的脚長差の存在によって体幹、上肢への負荷にも偏りが発生することが、障害発生にもつながる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回、ボート選手における障害発生において、身体に生じている主観的左右差が関係している可能性が示唆された。スポーツ現場において、各選手において生じている左右差を正しく評価してアプローチを行うことで障害の予防、改善を行える可能性があることが分かった。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101037-48101037, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205574630144
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- NII論文ID
- 130004585385
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可