急性期アテローム血栓性脳梗塞患者における離床時の血圧低下に関連する因子

DOI
  • 國枝 洋太
    東京都済生会中央病院 リハビリテーション科
  • 松本 徹
    東京都済生会中央病院 リハビリテーション科
  • 今井 智也
    東京都済生会中央病院 リハビリテーション科
  • 三木 啓嗣
    東京都済生会中央病院 リハビリテーション科
  • 足立 智英
    東京都済生会中央病院 神経内科
  • 星野 晴彦
    東京都済生会中央病院 神経内科
  • 新田 收
    首都大学東京 健康福祉学部 理学療法学科

抄録

【はじめに、目的】脳卒中治療ガイドライン2009においてアテローム血栓性脳梗塞では,血圧変動に伴い神経症状の増悪を認める場合があるとされており,発症直後の離床における血圧低下には注意が必要である.当院における急性期アテローム血栓性脳梗塞患者の早期離床では,安静背臥位と比較した端座位5分後の収縮期血圧で有意な低下を認めた.そこで本研究では,急性期アテローム血栓性脳梗塞患者の早期離床をより安全かつ迅速に行うために,早期離床時の収縮期血圧低下に関連する因子の抽出を目的とした.【方法】対象は2009年10月から2012年9月に発症後3日以内に当院に入院した急性期脳梗塞患者418名のうち,当院の離床コースに従って離床を図り,離床時の血圧データ欠損がないアテローム血栓性脳梗塞患者68名とした.診療録より離床時(安静背臥位,端座位直後,端座位5分後)の収縮期血圧を後方視的に調査し,安静背臥位と比較した端座位5分後の収縮期血圧が20mmHg以上低下した群13名と低下が20mmHg未満の群55名の2群に割りつけた.離床に際し中止基準(自覚症状の出現,収縮期血圧40mmHg以上の低下,脈拍20回/分以上の増加)を設け,いずれかが出現した場合は離床を中止した.検討項目は,年齢が75歳以上か否か,離床時の意識障害の有無,発症から離床までの日数が2日以内か否か,初期評価時Barthel Index(以下BI)が60点以上か否か,各既往歴(高血圧症,脂質異常症,糖尿病,心房細動,心疾患,呼吸器疾患,神経疾患,整形疾患)の有無を2群で比較した.統計分析にはSPSSver20を使用し,各検討項目と端座位5分後の収縮期血圧変化の関連についてクロス集計表を作成し,その関連についてχ²検定を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】理学療法開始時に内容の説明を全患者本人または家族に行い,書面にて同意を得た上で実施した.この研究はヘルシンキ宣言に沿って行い,得られたデータは匿名化し個人情報が特定できないよう配慮した.【結果】安静背臥位と比較した端座位5分後の収縮期血圧低下と有意な関連を示したのは,意識障害の有無,糖尿病の有無であった.意識障害を有する場合(JCSI~III),対象者37名のうち,5分後の収縮期血圧が20mmHg以上低下したものは11名(29.7%)であった.これに対して20mmHg以上低下しなかったものは26名(70.3%)であった.一方,意識障害のない場合,対象者31名のうち,5分後の収縮期血圧が20mmHg以上低下したものは2名(6.5%)であった.これに対して20mmHg以上低下しなかったものは29名(93.5%)であった.また糖尿病を有する場合には,対象者30名のうち,5分後の収縮期血圧が20mmHg以上低下したものは10名(33.3%)であった.これに対して20mmHg以上低下しなかったものは20名(66.7%)であった.一方,糖尿病のない場合,対象者38名のうち,5分後の収縮期血圧が20mmHg以上低下したものは3名(7.9%)であった.これに対して20mmHg以上低下しなかったものは35名(92.1%)であった.年齢,発症から離床までの日数,初期評価時BI,各既往歴の有無に有意な関連を認めなかった.【考察】急性期アテローム血栓性脳梗塞患者の離床では,糖尿病を有し意識障害を認める場合には端座位時における20mmHg以上の収縮期血圧低下に関連していることが示唆された.意識障害は脳幹病変,または大脳病変が大きく頭蓋内圧が亢進し脳ヘルニアを生じることで,脳幹を圧迫する場合に生じるとされている.意識障害を認める場合には相応の脳損傷の存在が示唆され,脳損傷による脳血流自動調節脳の破綻により,離床時の収縮期血圧低下を認めていたと考える.またアテローム血栓性脳梗塞に関連する代謝性危険因子として糖尿病があげられる.本研究において糖尿病の有無と離床時の収縮期血圧低下が関連していたことは,糖尿病の3大合併症の一つである神経障害のうちの自律神経障害が影響を及ぼしていることが示唆される.該当患者の離床の際には,血圧の経過を厳密に観察するとともに,自覚症状や他覚所見の出現や悪化を注意深く確認することが重要であると考える.今後の課題として,脳血管病変の程度や損傷部位別での検討,意識障害の程度の違いによる検討などを行う必要がある.【理学療法学研究としての意義】急性期アテローム血栓性脳梗塞患者の早期離床の血圧低下に関連する因子が抽出されることで,理学療法の際のリスク管理として介入前に血圧低下を予測して離床を行うことが可能となる.よって早期離床のリスク管理をエビデンスに基づいて行いながら理学療法が実施できるようになると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101445-48101445, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574687232
  • NII論文ID
    130004585684
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101445.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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