臨床実習指導者の負担と職業性ストレスについて

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抄録

【はじめに,目的】社会の高齢化が進む中で,理学療法士(以下,PT)の需要も専門施設から地域,在宅などに広がっており,理学療法士養成校および資格取得者数は年々増加している。その中で臨床実習は学生が実際の症例を通して学ぶことのできる機会であり,必修科目となっているが,精神・身体的負担があると多くの先行研究より明らかとなっている。また,臨床実習方法については,クリニカル・クラークシップをはじめとした指導形態の検討や実習指導者(以下,SV)の待遇や業務負担などに関して多くの議論や研究がなされている。しかし,実際にSVが感じている負担や職業性ストレスに対する詳細な研究は少ない。今回,当法人における臨床実習の現状やSVの指導方針,指導の悩みなどについてのアンケートを実施し,同時に職業性ストレスを評価することでSVの負担やストレスについての検討を行った。【方法】当法人内の2病院においてSVを担った事のあるPT10名を対象とした。方法はアンケート質問紙法,職業性ストレス簡易票を実施した。アンケートは無記名とし,内容は臨床実習に対する考えや現状などの全般的な項目,担当した直近の学生についての悩みや負担感についての項目とした。選択回答や自由記載により得た回答を集計した。職業性ストレス簡易票は既存のマニュアルに従い,分析を行なった。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき計画し,アンケート対象者に文書にて研究主旨を十分説明し,同意が得られたもののみ実施した。【結果】有効な回答は対象とした10名(男:5名,女5名)全てから得られた。臨床経験年数は7.2±3.6年,年齢は29±3.5歳であった。過去に指導した学生の人数は1~5人が7名,6~10人が2名,15人以上が1名であった。職業性ストレス簡易票により,3名のSVがストレスを強く感じていると示された。アンケート結果として,臨床実習生を担当する際の大きな要因は,「後輩の育成は専門職としての義務だから」4名,「SVやスタッフにとって学術的刺激になる」3名,「病院,リハビリテーション部内の役割として仕方なく」3名であった。学生のフィードバックに要していた時間は20分~40分が2名,40分~1時間が5名,1時間~1時間半が3名であった。学生を担当していた時の指導時間の増大による理学療法業務への影響については,全てのSVがあったと回答し,複数回答の内容としては「カルテ記載などの間接業務に影響し残業となる」が9名,「精神的・肉体的に負担が増す」が6名,「SVの担当患者の診療時間に影響している」が5名,「他スタッフとの共有時間が取れなくなる」が3名,「その他」として「自分・実習生・患者のタイムスケジュールの管理が難しくなる」が1名という結果であった。指導中に,どのような事で悩むかの自由記載では,「指導方法について」や「学生との接し方について」が多くを占めていた。【考察】今回,職業性ストレス簡易票の結果では,3名のSVが実習指導中に強いストレスを感じており,その他7名のSVは強いストレスを感じていないということが示された。強いストレスを感じているとされた3名のうち2名は実習生を担当する要因として,「病院,リハビリテーション部内の役割として仕方なく」と回答していた。このことから,実習生の担当を業務として考えているSVは,仕事上のストレスを評価する職業性ストレス簡易票で強いストレスを感じているとの結果が出たのではないかと考えられた。一方でその他のSVは,「後輩の育成は専門職としての義務」や「SVやスタッフにとって学術的刺激になる」と回答していたことから,実習生を担当することを仕事の一環と言うより,専門職の役割として捉えていると考えられた。しかし,8名のSVが実習生へのフィードバックに40分以上を費やし,全てのSVが指導時間の増大による理学療法業務への影響を感じていた。また,自由記載でも指導方法や学生との接し方について悩み抱えている事が伺えたため,何らかのストレスはあったと推測された。今回の研究ではSVの負担と職業性ストレスについての現状把握を行ったが,仕事のストレスを表す職業性ストレス簡易票においてストレスを強く感じているSVは少なかった。今後,SVのストレスや負担について,対人性のストレス尺度や指導方法についてのストレスなどを調べることで,より適切な評価が行えるのではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】SVの現状把握をすることは,理学療法教育にとって必要であると考える。SVのストレスの原因を把握しサポートしていく事で,今後の臨床実習教育に貢献できる意義は大きい。

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