短下肢装具の背屈制動開始角度の違いが二分脊椎・脳性麻痺の歩容に与える影響

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  • 糸数 昌史
    国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科

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抄録

【はじめに、目的】 Gait Solutionに代表される底屈制動機能つき短下肢装具が開発されたことにより、AFO装着時にロッカーファンクションを引き出すことの重要性が示唆されている。前学会にて底背屈方向への制動機能を備えた短下肢装具(WGS)が立脚期における下肢屈曲傾向の大きい対象者の歩容を改善すると報告したが、対象者に合わせた背屈制動の開始タイミングの検討が課題であった。そこで、本研究では二分脊椎症と脳性麻痺を対象に、WGSの異なる背屈制動開始角度の設定による背屈制動の効果の違いを三次元動作分析装置により評価し、有効な背屈制動角度の設定を明らかにするために検討を行った。【方法】 対象者は下肢に運動麻痺を呈し、立脚期に膝屈曲傾向を示す患者10名(二分脊椎症5名、脳性麻痺5名)とした。動作課題は10mの自由歩行とし、1)裸足 2)本人のAFO  WGSの背屈制動開始角度で、3)下腿垂直(底背屈0°) 4)下腿後傾(底屈5°) 5)下腿前傾(背屈5°)の5条件を設定した。背屈制動角度は継手部分の調整用コマを変更する方法と下腿カフ内面の厚みを変更する方法で調整した。また、油圧ダンパーの設定はPTの観察と本人の歩きやすさを聴取した結果から決定した。各条件とも5分程度の練習時間を設定し、5~6試行をランダムに実施した。歩行の評価は赤外線カメラ12台と床反力計6枚で構成された三次元動作分析装置(VICON612)を用いた。計測した各試行において、1歩行周期における歩行速度・歩幅・下肢関節角度・関節モーメント・COG上下方向位置の移動量を算出した。また、各条件におけるWGSの着用感(歩きやすさ)について聴取した。データ分析は、各パラメータを条件間で比較し、Friedman検定を用いて、それぞれの条件間の統計処理を行った。なお、危険率は5%未満で判定した。【倫理的配慮】 本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を受けた。また、対象者とその家族には本研究の目的・方法・リスクの説明を行い、書面による同意を得た。【結果】 対象者の歩行分析の結果から、初期接地(IC)の様式は踵接地群と足底接地群に分類ができた。初期接地の様式に関係なく、背屈制動を底背屈0°から行った場合は立脚期の膝屈曲ピーク角度が有意に減少するなどの一定の効果が得られた。しかし、底屈5°から背屈制動を開始した条件では、足底接地群ではICから荷重応答期(LR)にかけて体幹の前傾がみられたが、踵接地群では底背屈0°の条件よりも下肢屈曲傾向の改善がみられた。背屈5°の条件では、ICの様式に関係なく歩行パラメータの変化はみられなかった。WGSの着用感については、既存のAFOよりもWGSのほうが歩きやすいとの肯定的な意見もあったが、装具の動きを意識しながら歩くのが難しい、違いがわからない、不安定で怖いとの感想も聞かれた。【考察】本研究では背屈制動つき短下肢装具の背屈制動開始角度について検討した。本研究の対象者は通常は背屈を制限したAFOを着用しており、歩行において背屈位で装具による支持を得るために立脚期早期に下腿を前傾させた、かがみ歩行を呈する者が多かった。これらの歩容に対して、WGSが接地後の下腿の傾きをコントロールすることにより、歩容の改善につながったと考えられる。また、結果から歩容改善に有効な制動開始角度はICの様式によって異なることが示唆された。踵接地が可能な群では踵接地後の底屈位からの背屈制動により、アンクルロッカーを早期から補助することができたと考える。しかし、IC時足底全体での接地ではヒールロッカーの動きが破綻しており、接地後すぐに背屈制動を行うことで下腿の前傾が阻害され、体幹前傾動作が代償的に生じたと考えられる。またICの様式に関係なく、背屈制動を5°から開始した条件では歩容の改善は認められなかった。これはすでに下腿が前傾し、膝関節の屈曲方向に動いている時期であるために下腿前傾の動きを制動しきれなかったことが原因と考えられる。WGSの着用感については、既存のAFOの「背屈位で下腿前面に持たれながら支持を得る」という使い方ができないことによるネガティブな感想が多く聞かれた。しかし、WGSの「動きにブレーキをかける」「支えながら動く」という特性が理解できた対象者では歩きやすいという感想が多い傾向にあり、AFOのコンセプトの違いをしっかりと説明し、意識してもらうことが重要である。また、対象者へ装具の特性や着用時の動きをフィードバックし、適切な動作指導や装具の調整が行えるような手法の検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究は底背屈制動機能つき短下肢装具の有効性と適応範囲について検討した研究であり、装具の機能を有効に用いるために必要な新たな知見が得られた。そこから新たな装具療法の可能性や理学療法の展開につながると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101414-48101414, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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