多関節運動連鎖としての姿勢制御に重点をおいた運動療法の効果に関する人工膝関節全置換術後を対象とした無作為化比較対照試験

  • 武藤 智則
    さいたま市立病院 リハビリテーション科
  • 金村 尚彦
    埼玉県立大学 保健医療福祉学部 理学療法学科 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学 研究科
  • 高柳 清美
    埼玉県立大学 保健医療福祉学部 理学療法学科 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学 研究科
  • 五味 敏昭
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学 研究科

書誌事項

タイトル別名
  • -術後3ヶ月までの調査-

説明

【目的】我々は,第47回日本理学療法学術大会で変形性膝関節症(膝OA)により人工膝関節全置換術(TKA)を施行した症例を対象として,在来の理学療法(Traditional EX)と比較した多関節運動連鎖に重点をおいた運動療法(MCMJ EX)の効果を無作為化比較対照試験(RCT)により検討し,MCMJ EX群は退院時の時点で動的バランスの改善や姿勢戦略の学習に有効である可能性があることを報告した.今回、術後3ヶ月までのMCMJ EXの効果をRCTにより検討したので報告する.【方法】対象は当院にて膝OAによりTKAを施行した神経疾患及び他の運動器疾患のない患者33名(MJMC EX群17名,Traditional EX群16名)とした.介入は対象を無作為にMJMC EX群,Traditional EX群の2群に分け,関節可動域練習や歩行練習などの運動療法のほかに,MJMC EX群は荷重下での立位重心移動,Forward Lunge位からの膝伸展動作,患側片脚立位での健側股関節外転運動など多関節運動連鎖に重点を置いた運動療法を施行し,Traditional EX群はSLRやLeg Extension Exerciseなどの非荷重下単関節運動での筋力強化練習を主とした在来の理学療法を施行した.それぞれの運動を20分間施行.入院中は週5回,退院後は週1回,Home Exerciseは1日20分間を週3回とした.評価項目は姿勢安定度評価指標(IPS),術側への立位重心移動時の前額面上での姿勢戦略(ToMoCo-Liteにより両肩峰・両大転子・両外果の中央点を結ぶ線分のなす角度を算出),膝伸展筋力(Biodex System3を使用しIsokinetics 60deg/secでの体重比トルク(%BW)の最大値)とした.測定時期はTKA術前,退院時,術後2ヵ月,術後3ヶ月とした.統計解析は術前の群間差をMann-Whitneyの検定とx2検定,2群間の比較は二元配置分散分析を行い,交互作用が有意なものに単純主効果の検定を行い,Bonferroni法を用いて多重比較を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮】当院および埼玉県立大学倫理委員会の承認のもと,対象者には口頭にて説明を行い,文書にて同意の得られた患者を対象とした.【結果】2群間において術前の特性および評価項目に有意差を認めなかった.また術後在院日数はMJMC EX群23.1日,Traditional EX群25.1日であり有意差を認めなかった.IPSにおいてMJMC EX群の測定値は術前1.24,退院時1.42,術後2ヵ月1.62,術後3ヵ月1.63であり,Traditional EX群の測定値は術前1.21,退院時0.99,術後2ヵ月1.18,術後3ヵ月1.26であった.MJMC EX群はTraditional EX群より退院時,術後2ヵ月,術後3ヵ月において1%水準で有意に改善した.MJMC EX群は術前と比較して退院時,術後2ヵ月,術後3ヵ月の間において有意に改善した.前額面上での姿勢戦略においてMJMC EX群の測定値は術前173.6±0.40,退院時179.9±5.2,術後2ヵ月181.9±2.2,術後3ヵ月183.3±2.6であり,術前は立位HAT戦略だったが退院時以降で立位Pelvic戦略への変化が観察された.Traditional EX群の測定値は術前172.9±5.9,退院時174.4±5.9,術後2ヵ月174.0±5.4,術後3ヵ月173.9±4.8であり,立位HAT戦略のまま変化はみられなかった.MJMC EX群はTraditional EX群より退院時,術後2ヵ月,術後3ヵ月において1%水準で有意に改善した.MJMC EX群は術前と比較して退院時,術後2ヵ月,術後3ヵ月の間において有意に改善した.膝伸展筋力は2群間において有意差を認めなかった.【考察】本研究では動的バランスの指標であるIPSにおいてMJMC EX群はTraditional EX群と比較し退院時から術後3ヶ月まで有意に改善した.MJMC EXがTKA後早期における動的バランスの改善に有効である可能性を示唆している.前額面上での姿勢戦略においてMJMC EX群は術前の立位HAT戦略から立位Pelvic戦略に動作様式への変化が観察された.これによりTKA患者は前額面上での姿勢戦略において,MJMC EXの介入なしには術後3カ月の時点でも姿勢戦略に変化がないこと,MJMC EXによる介入が退院時という術後早期の時点より姿勢戦略に変化を表すことが明らかとなった.これはTKA後早期におけるMJMC EXによる介入の必要性,有効性を示唆している.前額面上での姿勢戦略について,膝OAによるTKA前後の測定や介入の違いによる経時的変化についての報告は見当たらないため,本研究結果は新たな知見といえる.今後はさらに経時的に調査し,長期介入による運動療法の効果や多施設間による大規模RCTの研究の必要性があると考える.【理学療法学研究としての意義】TKA術後早期における多関節運動連鎖としての姿勢制御に重点をおいた運動療法介入をRCTにより検討した報告は見当たらず,TKA後早期における動的バランスの改善や姿勢戦略の学習に有効である可能性が示唆された.TKA後患者の理学療法プログラムを立案する上で多関節運動連鎖としての姿勢制御に重点をおいた運動療法介入を考慮していく必要性が示唆された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101522-48101522, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574739712
  • NII論文ID
    130004585738
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101522.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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