回復期脳卒中患者における6分間歩行距離と下肢体幹運動機能および自覚的運動強度の関連

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抄録

【はじめに,目的】脳卒中患者の体力評価に関して様々な評価方法が検討されているが,とりわけ簡便な6分間歩行テストによる最大歩行距離(6MD)は,運動耐応能の指標に有用であることが報告されている。しかし,脳卒中患者の運動耐応能は運動麻痺および麻痺側下肢筋力など種々の要因が関連することが報告されており,脳卒中患者の体力評価としての6MDの位置づけおよび意義をより明確にするためには,6MDと諸運動機能および自覚的運動強度との関連性を明らかにする必要がある。一方で,脳卒中患者における運動に関する諸機能は互いに関連しているため,疑似相関や多重共線性に配慮した分析が必要となる。そこで本研究では回復期脳卒中患者を対象に偏相関分析を用いて,下肢機能,筋緊張,体幹,自覚的運動強度が6MDに与える影響を検討した。【方法】対象は脳梗塞もしくは脳出血と診断され,当院回復期リハビリテーション(以下リハ)病棟に入院した患者で,下肢装具を必要とせずにT字杖または独歩で歩行可能であった48名(男性29名,女性19名)とした。平均年齢は70.1歳(32-92歳)であり,脳梗塞40名,脳出血8名であった。各対象者のカルテから以下の退院時の評価結果を収集し,6MDと諸運動機能および自覚的運動強度の関連を分析した。下肢運動機能および体幹運動機能の指標としてStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)の下肢近位股,下肢近位膝,下肢遠位,下肢筋緊張,腹筋力項目,そして非麻痺側と麻痺側の膝伸展筋力を用いた。膝伸展筋力測定は,Hand Held Dynamometer(ANIMA社製 等尺性筋力計μTas F-1)を使用して3回測定し,その最大値を体重で除した体重比(Nm/kg)を膝伸展筋力の指標とした。6分間歩行テストは最大努力下で行い,テスト終了後に歩行距離とBorgスケールを用いて自覚的運動強度を確認した。各評価は担当理学療法士が実施した。統計学的検討は,6MDと各運動機能の関連性を偏順位相関を用いて分析した。交絡を排除し,各運動機能が独立したかたちで6MDとの相関を求めるため,年齢および6MDと相関係数を求める項目以外の変数を制御因子として投入した。有意水準は5%未満とした。【結果】偏相関分析の結果,6MDと相関を認めた項目は,下肢近位膝(rs=0.41,p<0.01),下肢筋緊張(rs=0.36,p<0.05),腹筋力(rs=0.37,p<0.05)であった。その他の項目では相関は認められなかった。【考察】本研究の結果は,6MDと麻痺側膝の運動麻痺および筋緊張,腹筋力は関連するが,自覚的運動強度であるBorg Scaleは諸運動機能が一定であったと仮定しても6MDと相関しないことを示すものである。つまり,6MDは自覚的な疲労度の影響を受けることは少なく,麻痺側膝の機能および腹筋力の影響を強く受けることが推測される。Pohlら(2002)は,6分間歩行テストと下肢Fugl-Meyer score,Berg Balance Scoreの関連性を報告し,総合的な機能が関連することを示唆している。本研究の結果も種々の身体機能が6MDに関連することを支持する結果であり,特に麻痺側膝の筋緊張を加えた運動機能や腹筋力が重要であることを示唆する結果となった。一方で,先行研究では6MDと関連する要因として,膝関節屈曲筋力(近藤ら,2011),足関節背屈筋力(Shamayら,2012)が挙げられている。今後これらの要因を含めた更なる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】回復期脳卒中患者において,6MDは自覚的疲労度よりも麻痺側下肢や体幹の運動機能を反映する評価法であることが示唆された。歩行距離の延長を目標にリハを行なっていく場合には,有酸素運動に加え,運動機能にも介入を行なっていく必要性があることが示唆された。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575219328
  • NII論文ID
    130005248757
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1093
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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