在宅要介護高齢者における災害時の避難方法に対する不安要因
書誌事項
- タイトル別名
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- 外出状況・避難方法想定状況・避難訓練実施状況との関係
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説明
【はじめに、目的】 災害時における高齢障害者の死亡割合は、6割以上と高く、その多くは逃げ遅れによることが報告されている(野竹ら・2003)。実際に、高齢障害者やその家族は避難方法が分からず、避難することをあきらめざるを得ないとの声も聞かれる。我々は、災害時の避難方法関する現状調査を実施し、避難方法に不安を感じている人が多いことを報告した。災害時の避難方法に対する不安を軽減させるために、防災対策として理学療法士が取り組むべき不安の要因を明らかにし、具体的な避難方法指導の確立へと繋げて行く必要があると考えた。 本研究では、通所および訪問リハビリテーションを利用する在宅要介護高齢者を対象として、災害時の避難方法に対する不安要因を調査し、外出状況および災害時の避難方法想定状況,避難訓練の実施状況において、不安要因との関係について明らかにすることを目的とした。【方法】 対象者は、2カ所の介護老人保健施設にて通所または訪問リハビリテーションを利用している者のうち、改訂長谷川式簡易知能評価スケールが21点以上であった86名(男性37名,女性49名、54~88歳)とし、独自で作成した災害時の避難方法に関する調査票を用いて聞き取り調査を実施した。 調査項目として、1)避難方法の不安の有無,2)避難方法の不安要因(逃げ方がわからない,転倒してしまいそう,急いだ動作の仕方がわからない)(複数回答),3)普段の外出頻度(通所系サービスを除く),4)普段外出時の介助の有無,5)普段外出時の不安の有無,6)普段外出時の転倒・ヒヤッとした経験の有無,7)自力での避難方法想定の有無,8)介助での避難方法想定の有無,9)避難訓練の実施の有無とした。 分析対象者は、避難方法に不安がある者69名とした。2)避難方法の不安要因として挙げた3つの項目、逃げ方がわからない(避難方法不明),転倒してしまいそう(転倒不安),急いだ動作の仕方がわからない(迅速な動作不明)について3)~8)との関係を明らかにするため、および2)の3つの不安要因内における関係を明らかにするために、クロス集計によるχ2検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の趣旨を書面および口頭にて説明し、協力の意思について同意書への署名をもって同意を得た。また、本研究の実施について、介護老人保健施設の施設長からの同意も得た。【結果】 2)災害時の避難方法における不安要因について、 避難方法不明40.6%, 転倒不安60.9%, 迅速な動作不明92.8%という状況であった。また、避難方法不明としている者は、転倒不安の人数割合が有意に高かった(p<0.05)。3)外出頻度が少ない者は、避難方法不明・転倒不安の人数割合が有意に高かった(p<0.05)。4)普段外出時の介助が必要な者は、避難方法不明の人数割合が有意に高かった(p<0.05)。6)転倒・ヒヤッとした経験がある者は、転倒不安の人数割合が高かった(p<0.05)。5)普段外出時の不安の有無、7)・8)避難方法の想定状況については、避難方法不明・転倒不安・迅速な動作不明において有意差は認められなかった。また、迅速な動作不明については、どの項目にも有意差は認められなかった。9)避難訓練はすべての対象者が実施していなかった。【考察】 避難方法不明と転倒不安はともに、外出頻度が非常に少ない者と関係していた。また、避難方法不明のみでは、普段外出時に介助を必要とする者と関係し、転倒不安のみでは、転倒・ヒヤッとした経験と関連していた。そこで、避難方法不明・転倒不安の2つの不安要因を軽減させるためには、外出頻度を高めることが重要と考える。さらに、避難方法不明については普段外出時の介助量の軽減が必要であり、転倒不安については普段外出時の動作方法に対する見直しを行う必要があると考えた。 避難方法の不安要因として、9割以上の者が挙げた迅速な動作方法不明については、避難方法の想定の有無に有意差が認められず、すべての者が避難訓練を実施していなかった。これは、避難方法の想定状況・外出状況に関係なく不安と感じている者が多いことを示していた。 これらのことより、災害時の避難方法における不安要因を軽減させるためには、安全に配慮した普段外出時の動作練習を充実させることに加え、避難を想定した実践的な避難練習(迅速な避難方法)も取り組むことが重要であると考えた。【理学療法学研究としての意義】 日常生活活動の獲得・維持に対しての理学療法のみならず、災害時の避難練習を独立した理学療法プログラムとして取り入れる必要性を明らかにしたことに意義がある。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101608-48101608, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205575264256
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- NII論文ID
- 130004585803
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可