足圧中心前方移動距離と足趾荷重量・足趾把持筋力との関連

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抄録

【はじめに,目的】足趾とバランスとの関連に着目した研究は多く,例えば,母趾の接地の有無が足圧中心(Center of Pressure:COP)の前方移動に影響すると報告されている(浅井ら,1989)。しかし,足趾の荷重の程度については明らかにされていない。また,足趾把持筋力増強によるFunctional Reach Testの向上(相馬ら,2012)が明らかにされているが,足趾把持筋力とCOP前方移動距離との関連については明らかにされていない。そこで本研究では,①COP前方移動距離と足趾荷重量との関連,また,その際の母趾と第2~5趾の荷重量の違いを明らかにした。②COP前方移動距離と足趾把持筋力との関連を明らかにした。【方法】対象は健常成人女性8名(年齢20.1±0.8歳)とした。「足趾荷重量(%足趾荷重量は足圧分布測定器F-scanII(ニッタ社製)を使用した。4条件(a.全趾荷重,b.母趾のみ荷重,c.第2~5趾のみ荷重,d.全趾免荷)で測定な可能な自作の足台上で,足関節背屈のみで最大限身体を前傾させ,5秒間の足趾荷重量をサンプリング周波数30Hzで記録した。4条件各2回の母趾と第2~5趾にかかる総荷重量の平均を体重で除した。COP前方移動距離(%COP)は重心動揺計(ユニメック社製)上に前述した足台を置き,10秒間の踵からのCOP前方移動距離をサンプリング周波数20Hzで,足趾荷重量と同時に記録した。4条件各2回の平均値を足長で除した。「足趾把持筋力」は足趾把持筋力測定器(竹井機器社製)を使用した。端座位にて,足趾把持バーに第一指節間関節を合わせ,バーを把持した際の足趾把持筋力を左右各2回測定した。分析方法は①4条件の%COPと%足趾荷重量についてPearsonの相関係数を算出した。また,a.全趾荷重時の母趾と第2~5趾への荷重量の違いに関して,対応のあるt検定を用いた。②4条件の%COPと足趾把持筋力に関して,Pearsonの相関係数を算出した。分析にはSPSS ver21を用い,有意水準は5%とした。【結果】%COPはa.70.1±5.0%,b.65.8±6.8%,c.63.5±3.1%,d.58.2±5.4%であった。%足趾荷重量はa.30.0±10.5%(内訳:母趾20.2±5.9%,第2~5趾9.8±5.4%),b.24.8±10.7%,c. 9.2±4.6%であった。足趾把持筋力は12.7±4.0kgであった。①%COPと%足趾荷重量はa.全趾荷重・b.母趾のみ荷重で有意な相関が認められ(r=.744~.890),c.第2~5趾荷重では有意な相関は認められなかった。また,a.全趾荷重時の母趾と第2~5趾への荷重量は,母趾が有意に高値であった(p<0.01)。②%COPと足趾把持筋力はc.第2~5趾のみ荷重で有意な相関が認められた(r=.72)が,その他の条件では有意な相関が認められなかった。【考察】①より,母趾への荷重量が多い程,COPの前方移動が可能であった。この理由として,体性感覚,支持機構,足関節の運動軸の点から考察した。母趾は足底部のうち最も感度が高く(浅井ら,1990),mechanoreceptorが多く存在する(井原,1985)。mechanoreceptorは高次中枢への情報提供を行う(大久保ら,1979)ことから,本研究では母趾への荷重によって体性感覚入力が増加し,姿勢制御に有効に働いたと考えた。また,母趾はその構造上,床面を「押す」作用,第2~5趾は「つかむ」作用があり(山崎ら,1999),筋力は第1~5趾のうち最も強い(Kimら,2011)。姿勢制御中の足趾は床面を「押す」動作に近似しており,母趾が支持機構として働いたと考えた。さらに,距骨下関節の運動軸は矢状面から16°母趾側へ傾くことから,母趾へのCOP移動は内外反が生じにくく,安定性が得られやすかったと考えた。②より,通常の立位姿勢では,足趾把持筋力とCOP前方移動距離との関連は認められなかった。長趾・長母趾屈筋は足関節の外反を抑制し足部の剛性を高め,前脛骨筋・下腿三頭筋は足関節の安定化に関与することから,足趾把持筋力とCOP前方移動距離には相関があると仮説を立てたが,本研究の結果と異なった。これは,足趾把持筋力測定における「つかむ」動作と,実際の立位保持の足趾で床面を「押す」動作の差異が原因であると考えた。一方で,c.第2~5趾のみ荷重においては相関が認められた理由として,母趾を免荷したため第2~5趾の「つかむ」作用で代償したと考えた。つまり,胼胝や足趾変形などにより母趾に荷重が行えない状況では,第2~5趾が前方の安定性に寄与する可能性が示唆された。以上より,前方へのバランス能力向上を目的とした足趾トレーニングでは,母趾は荷重(押す)トレーニング,第2~5趾は把持(つかむ)トレーニングが有用であろうことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】前方へのバランス能力向上を目的とした足趾トレーニング方法を提案できた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575304960
  • NII論文ID
    130005248697
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.0977
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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