RFD向上トレーニングとしての高速スクワットの有用性

  • 井上 純爾
    奈良県立医科大学附属病院医療技術センターリハビリテーション係
  • 大重 努
    御影ごきげんクリニック
  • 向井 陵一郎
    医療法人樫本会樫本病院
  • 小栢 進也
    大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科
  • 岩田 晃
    大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科
  • 淵岡 聡
    大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科

説明

【はじめに,目的】下肢筋の瞬間的な筋力発揮特性の指標である筋力発生率(rate of force development;以下RFD)は,歩行速度,垂直跳び高などとの関連が報告されている。最大筋力では発揮までに多くの時間を要するのに対し,RFDは筋力の立ち上がりの早さの指標であるため,素早い動作を行うための一要因だと考えられる。本研究では,RFDの中でも筋力発揮開始後100ms以内の筋力発生率に着目した。RFDを向上させるには垂直跳びのような瞬発的な動作特性を含むトレーニングが有用とされるが,高負荷な運動が禁止されている場合は傷害リスクが高いと考えられる。そこで,より安全にRFDを向上できるトレーニング方法として,素早いスクワット(以下,高速スクワット)を考案し,これらを垂直跳びよりも負荷が小さい瞬発的な運動課題として定義した。本研究では,低負荷RFD向上トレーニングの開発を念頭に,瞬発的な運動課題時の動作特性とRFDの関連を明らかにすることを目的として,高速スクワットおよび垂直跳びの動作特性と膝関節伸展(以下,膝伸展),膝関節屈曲(以下,膝屈曲)および足関節背屈(以下,足背屈),足関節底屈(以下,足底屈)のRFDの関連について分析を行った。【方法】対象は健常成人女性22名とした。測定項目は身長,体重,膝伸展・屈曲,足背屈・底屈の最大筋力およびRFD,瞬発的な動作課題として高速スクワットの所要時間と垂直跳びの跳躍高とした。筋力は固定式ダイナモメーター(BIODEX system3)を用いて,膝伸展・屈曲は膝屈曲70°にて,足背屈・底屈は膝屈曲60°および足底背屈0°にて,目前のLEDランプが点灯したと同時に「できるだけ速く強く力を入れるように」と指示し,3回ずつ計測し,最大値を体重で標準化し解析に用いた(単位:Nm/kg)。RFDは力-時間曲線において筋力が5Nmを超えた時点を筋力発揮開始と規定して,筋力発揮開始後50ms,100ms時点の筋力値を体重で標準化し単位時間当たりの値として算出した(50RFD,100RFD,単位:Nm/kg/s)。瞬発的な運動課題については,三次元動作解析装置(VICON NEXUS)を用いて,「できるだけ速く行う(高く跳ぶ)ように」と指示し,各運動課題を3回ずつ計測し,高速スクワットの所要時間(単位:s)と垂直跳びの跳躍高(単位:m)を算出した。統計学的処理として,各測定項目の関連はPearsonの積率相関係数を算出して検討した。統計解析にはJMP9.0を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】対象者の属性(平均値±標準偏差)は,年齢21.3±1.6歳,身長157.3±4.6cm,体重51.0±6.0kgであった。測定項目の結果は同様に,膝伸展の最大筋力2.2±0.5,50RFD 11.9±3.6,100RFD 10.0±3.0,膝屈曲の最大筋力0.9±0.2,50RFD 5.0±1.3,100RFD 4.3±0.9,高速スクワットの所要時間0.8±0.1,垂直跳びの跳躍高0.20±0.03であった。スクワットの所要時間は膝伸展の最大筋力(r=-0.44,p<0.05),50RFD(r=-0.60,p<0.01),100RFD(r=-0.59,p<0.01)および膝屈曲の50RFD(r=-0.57,p<0.01),100RFD(r=-0.59,p<0.01)との間に相関がみられた。また,垂直跳びの跳躍高は膝伸展の最大筋力(r=0.70,p<0.01),100RFD(r=0.47,p<0.05),膝屈曲の50RFD(r=0.54,p<0.01)との間に相関がみられた。足背屈・底屈の筋力と各動作特性に関連はみられなかった。【考察】垂直跳びの跳躍高と膝伸展の100RFDと相関がみられたものの,膝伸展の最大筋力との相関が高かった。一方,高速スクワットの所要時間は膝伸展の最大筋力よりも膝伸展の50RFDおよび100RFDとの相関が高かった。このことより,RFDは高速スクワットや垂直飛びなどの素早さが要求されるパフォーマンスとの関連があることを再確認することができた。特に,本研究では筋力発揮の初期段階における筋力発生率を計測しており,RFDは筋力において量的指標である最大筋力とは異なる側面の評価指標として有用性を示すものと考えられた。さらに,垂直飛びよりも低負荷だが高速なスクワットでは,最大筋力よりもRFDの方が強い関連があることが明らかとなった。つまり,筋力発生率は負荷量よりも素早い動作と強い関連があるため,高速スクワットのような低負荷でも素早い動作は低負荷RFD向上トレーニングの1つとして有用である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】垂直跳びよりも低負荷でRFDと関連が強い高速スクワットは,高負荷な運動が禁止されている場合でも,RFDを向上させるトレーニングとして有用である可能性が示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2014 (0), 1831-, 2015

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575311232
  • NII論文ID
    130005416891
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1831
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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