頸部伸筋群の筋緊張の亢進した児に対するボツリヌス療法の効果と環境因子の工夫

  • 泉 圭輔
    社会福祉法人びわこ学園医療福祉センター草津
  • 小田 望
    社会福祉法人びわこ学園医療福祉センター草津
  • 上野 史
    社会福祉法人びわこ学園医療福祉センター草津

書誌事項

タイトル別名
  • ケイブシンキングン ノ キン キンチョウ ノ コウシン シタ ジ ニ タイスル ボツリヌス リョウホウ ノ コウカ ト カンキョウ インシ ノ クフウ

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抄録

【はじめに、目的】ボツリヌス療法(以下Btx療法)は,痙性の亢進した筋に対して,局所的に筋活動を抑制し,痙性の影響を軽減する目的で行われる。しかし,全身的に筋緊張の亢進した重症心身障害児・者に対して,局所的なBtx療法の報告は少ない。そこで,頸部伸筋群の緊張に伴い,全身的に緊張が亢進する児に対して,頸部伸筋群にBtx療法を行った一症例について,その効果を検証したので報告する。【方法】対象児は,当園に入所されている18歳男児(身長:149cm,体重:35.2kg)で,GMFCSレベルはVである。頸部の伸展に伴って,全身的に緊張の高まる様子が見られ,部屋の入口を向くことが多いためか,伸展に加えて,左回旋していることが多い。対象児に対して,2012年3月,8月に僧帽筋および頸部伸筋群に対して,Btx療法が施行され,今後も継続を予定している。また,7月に,頸部の左回旋傾向に対して,ベッドの向きを変更し,右回旋時に,入口方向を向けるようにした。理学療法は,Btx療法にかかわらず,頸部の伸張や全身的なリラクゼーションを中心に,週2回の頻度で行った。頸部伸筋群(頭板状筋,頭半棘筋)に対する影響について,超音波診断装置(東芝メディカルシステムズ社製Xario)を用いて,各Btx療法の前,1ヵ月後,3ヵ月後の計6期,各筋の筋厚を3回測定し,平均値を算出した。安静側臥位にて,頸部後面にプローブをあて,安静時の筋厚を測定し,その後,日常的に行われる下肢の他動的な屈曲などによって筋緊張が生じた状態にて,緊張時の筋厚を測定した。同時に,ペディアトリックペインスケールを用いて,日常生活における,痛みや不快感について4段階(0,1,2,3)で評価を行った。評価は,9:00,13:00,15:00,18:00,1日計4回,直接介護職員によって行い,Btx療法の前,1週後,3週後,1ヵ月後,3ヵ月後,それぞれ1週間,記録を行った。また,頸部の回旋傾向について,2回目のBtx療法前後に,体幹部に対して頸部がどちらを向いていたか,同時間帯に記録を行い,頸部の回旋の割合を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】研究には,倫理的配慮を行い,保護者である成人後見人に研究について,説明し,同意を得た。【結果】1回目のBtx療法前後で,緊張時の頭半棘筋の筋厚の増加量において,Btx療法前は+2.7mm(右),+3.6mm(左)であったのに対し,1ヵ月後は+0.5mm(右),-0.3mm(左)と減少が見られ,3ヵ月後は,+2.0mm(右),-0.5mm(左)であり,効果が持続していた。Btx療法2回目は,より浅層の頭板状筋に施行した。結果,緊張時の頭板状筋の筋厚の増加量が,Btx療法前は,+2.8mm(右),+2.6mm(左)であったのに対し,1ヵ月後は+0.2mm(右),+0.2mm(左),3ヵ月後は,-0.9mm(右),+0.8mm(左)であり,減少がみられた。ペディアトリックペインスケールの評価において,Btx療法1回目は,施行前(1.38±0.77)と比べて,1週後(1.16±0.50)から減少し,3週後(0.93±0.46),1ヵ月後(0.85±0.49)もその効果が維持されていた。3ヵ月後(1.00±0.58)になるとやや増加傾向がみられたが,施行前まで増加しなかった。Btx療法2回目においても,施行前(0.91±0.94),1週後(0.69±0.48),3週後(0.73±0.46),1ヵ月後(0.59±0.51)と低い値を示した。3ヵ月後(0.93±0.47)は,1回目と同様に,やや増加傾向が見られた。頸部回旋の傾向については,ベッドの向きの変更での変化が認められなかった。2回目のBtx療法後には,右側臥位時に右回旋している割合が増加したが,他の姿勢では,大きな変化は認められなかった。【考察】Btx療法施行した部位に対して,緊張時の筋厚の増加量が減少したことから,Btx療法が狙った部位に対して,効果を生じていることが確認された。また,Btx療法後3ヵ月でも,効果の減少は認められるものの,Btx療法前の状態まで戻ってはいない様子であった。ペディアトリックペインスケールがBtx療法後に減少したことから,本症例において,Btx療法によって,痛みや不快感を軽減することができたと考えられる。直接介護職員からも,Btx療法後は,頸部が緊張して反っていることも少なくなり落ち着いていることが多くなった,介助時の緊張が軽減したとの意見も聞かれた。頸部伸筋群の緊張が軽減することにより,全身的に緊張する場面も減少し,姿勢が非対称に崩れることも少なくなり,結果,痛みや不快感が減少したと考えられる。しかし,Btx療法とベッドの向きの変更だけでは,頭頸部や体幹への荷重には変化がなく,頸部の回旋傾向が変化することは難しかったと考えられる。今後,ベッド上の環境設定を含め,更なる検討が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】本研究では,Btx療法に加えて,環境を工夫することで,痛みや不快感の軽減や頸部回旋傾向の軽減につながるかといった視点から,検討を行った。重症心身障害児・者に対して,Btx療法の効果を検討することは,その効果を最大限に引き出し,満足度を増加させ,QOLの向上につながると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101703-48101703, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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