理学療法学科学生の高齢者に対するエイジズムの経時的変化

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抄録

【はじめに、目的】 高齢者は寝たきりに繋がる疾患が多く、虚弱な印象が強いため、高齢者に対して否定的偏見である「エイジズム」という言葉が存在している。エイジズムとは、「高齢者を高齢であるという理由で系統的に類型化し、差別する過程」(Robert Butler、1995)と定義されている。高齢者に対する否定的なイメージや態度は、高齢者への接し方や目標設定に影響を与える可能性があるため、正しい知識を身につける必要がある。今後、医療に携わる学生は、高齢者に対して適切な知識や実態の把握が必要であると考える。先行研究では、短期大学看護学科の3年生が1年生より否定的偏見をもつことが示唆されている(小川、2001)。しかし、他の研究(佐野ら、2010)によると、デイサービスにおける高齢者看護学実習の前後では、実習後にエイジズムが弱くなると報告されており、看護学生においては見解が一致していない。我々は、理学療法学科学生を対象とした先行研究が見当たらなかったため、理学療法学科学生を対象にエイジズムの調査を実施し、1~4年生の学年間ではエイジズムが変化しないことを明らかにした(高橋ら、2012)。しかし、その調査は横断的な調査であった。そのため、本研究では理学療法学科学生の高齢者に対するエイジズムを明らかにすることを目的とし、縦断的な調査を行った。【方法】 対象は、群馬パース大学理学療法学科の3学年計118名、初回調査時1年生50名(男性27名、女性23名 平均年齢18.4±0.5歳)、初回調査時2年生46名(男性23名、女性23名 平均年齢19.3±0.5歳)、初回調査時3年生22名(男性10名、女性12名 平均年齢20.5±0.5歳)であった。エイジズムに関する調査を初回調査時、その1年後の第2回調査時の計2回実施した。調査は学年初めに実施した。エイジズムに関する調査は、E.B.Palmoreが作成したThe Fact of Aging Quiz(以下、FAQ)の下位尺度をもたない全3部・75項目のうち、第1部の25項目から成る質問紙を用いて実施した。FAQは、加齢についての知識をテストするだけでなく、加齢に対する態度をはかる間接的な尺度としても利用することができる。正解率が上昇するとエイジズムが低くなることを示す。調査実施後は各学年の正解率を算出し、経時的変化を比較するために学年ごとに対応のあるt検定を用いた。危険率は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者候補に対し、研究の目的、調査方法、参加による利益と不利益、自らの意志で参加し、またいつでも参加を中止できること、個人情報の取り扱いと得られたデータの処理方法、結果公表方法等を記した書面と口頭による説明を十分に行った。【結果】 FAQの正解率は、初回調査時1年生が59.9±9.9%から57.8±9.1%に変化した。初回調査時2年生が59.0±10.0%から63.7±10.8%に変化した。初回調査時3年生が65.6±11.6%から63.8±11.2%に変化した。初回調査時2年生のみが1年後の正解率が有意に高くなった。初回調査時1年生、初回調査時3年生には有意差は認められなかった。【考察】 大多数の人は高齢者に対し消極的で、否定的なステレオタイプを持っている(Palmore、1988)。本研究の結果から、どの学年においても少なからずエイジズムを有していると示唆された。経時的変化を追うために縦断的な調査を実施したところ、2年生から3年生になる1年間でのみ、正解率の上昇、すなわちエイジズムが低くなることが明らかとなった。この理由として考えられることは、1)1年生の1年間と比較して、2年生の1年間の方がより専門的な科目を学ぶため、2)1年生にはなかった見学実習を経験するため、の二点であった。本学の臨床実習に関するカリキュラムでは、3年生で評価学実習、4年生で総合臨床実習があるが、3年生から4年生になる学年の調査時期は総合臨床実習前であったため、評価学実習しか経験していない。3年生から4年生になる学年ではエイジズムは変化していないことから、評価学実習を経験してもエイジズムは変化しないことが示唆された。学内で学ぶ科目に着目すると、高齢者に関連する代表的な科目は、1年生は「公衆衛生学」であり、2年生は「老年医学」、「社会福祉・地域サービス論」であり、3年生は「地域理学療法学」、「地域理学療法学演習」、「評価学実習」である。このことから、2年生で「老年医学」や「社会福祉・地域サービス論」を学ぶことでエイジズムが低くなることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から、理学療法学科学生のエイジズムは2年生から3年生になる1年間に低下することが明らかとなった。このことは理学療法学教育において有意義な結果であったと考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101683-48101683, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575400704
  • NII論文ID
    130004585860
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101683.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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