大腿四頭筋皮下断裂の術後理学療法報告
説明
【はじめに、目的】大腿四頭筋皮下断裂の発症率は膝伸展機構損傷の中でも稀であり、術後の理学療法報告は少ない。今回、介達引力により受傷した大腿四頭筋皮下断裂患者を経験したため術後の理学療法を報告する。【方法】40代男性、会社員、身長177cm、体重93kg、BMI29.7。現病歴はゴルフ場の下り坂で足を滑らせ転倒。右大腿部痛にて当院外来受診。歩行が可能であったため同日knee brace装着し帰宅。MRIの結果より右大腿四頭筋皮下断裂の診断で、受傷後9日目で入院。10日目に手術施行し、内側広筋は内側1/2断裂、大腿直筋、外側広筋、中間広筋は全て横走断裂していた。術式は膝蓋骨の近位から遠位に骨孔を作製しBunnell縫合し、さらに補強を行った。既往歴は5年前に左下腿部挫傷。【倫理的配慮、説明と同意】本報告において当院倫理委員会の承認及び、対象者より文章にて同意を得て行った。【結果】術後、右膝関節軽度屈曲位でシリンダーギプス固定し、術後2日目より車椅子開始、術後5日目より1/2荷重開始。術後1週目より大腿四頭筋セッティング練習開始、術後2週よりシリンダーギプスで全荷重開始、術後3.5週より膝ActiveROM ex 開始、術後5週より両側支柱付膝サポーター装着し全荷重開始。術後7週で退院となり、週2回の外来理学療法を継続した。術後12週より両側支柱付膝サポーター除去となり、18週よりジャンプやジョギング等の高負荷な練習開始、術後20週で理学療法終了となった。筋力は徒手筋力計測器μTasF-1を使用し、膝伸展/屈曲筋力(kgf)の患健比を算出(%)。推移は術後4週で23.9/66.9、5週31.5/79.9、6週47.7/87.1、7週61.2/74.9、20週88.3/81.1であった。また筋組織の修復を考慮し4週目から実施した。初期は患部の痛みによる制限であったが、最終では痛みなく行えた。膝屈曲ROMの推移は術後3.5週で55度、5週で110度、7週で125度、20週で130度(健側135度)と左右差はほぼ改善した。大腿周径も最終評価では左右差を認めなかった。また、片脚スクワットやジョギング、階段昇降も安定して可能であった。【考察】大腿四頭筋皮下断裂は、慢性腎不全、SLE、糖尿病等の全身性基礎疾患を有する患者に発症しやすい。さらに中高齢者や肥満、加齢による膝蓋骨上縁骨棘形成、腱の変性等により健常人にも発症すると報告されている(川西ら2012)。本症例は明らかな基礎疾患はないものの中年者、肥満体型、急激な介達外力が加わったことが発症した要因と考えられる。術後の理学療法においては、経過は良好であり、終了時点では軽度の運動が可能となった。可動域は早期より積極的に介入を行うことができたが、筋力に関しては患部の違和感や痛みから最大筋出力の発揮が難しく、最終時点でも筋力低下が残存したと考える。組織の修復段階、筋再断裂防止を考慮し早期から運動内容や負荷量を調節していくことが重要と考える。【理学療法学研究としての意義】大腿四頭筋皮下断裂の術後理学療法における報告を蓄積することが今後の治療介入の一助になることを期待する。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101811-48101811, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205575456512
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- NII論文ID
- 130004585952
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可