経頭蓋直流電気刺激は脳卒中患者の触覚弁別能力を向上する

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  • ―二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験―

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【はじめに,目的】脳卒中患者における感覚障害は,日常生活活動の自立度や予後に影響することが報告されており,重大な問題である(Tyson et al.,2008)。近年,感覚機能を向上させる手段のひとつとして,頭蓋上から非侵襲的に皮質興奮性を修飾できる経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が注目されている。我々はこれまで,健常者を対象とした予備的検討において,一次体性感覚野(S1)および二次体性感覚野(S2)へのtDCSが,手指の触覚弁別能力を向上させることを報告した(Fujimoto et al.,2014)。そこで本研究では,感覚障害を持つ脳卒中患者にtDCSを適用することで触覚弁別能力が向上するか検討することを目的とした。【方法】対象は,維持期脳卒中患者11名(男性6名,女性5名,平均年齢62.5±7.8歳,損傷半球:右5名,左6名,平均発症後年数:4.5±2.2年)とした。選択基準は,初発脳卒中である,片側半球の皮質下病変である,感覚障害を有する,Mini Mental State Examinationが24点以上である,研究の同意が得られる者とした。除外基準は,感覚脱失である,脳卒中以外の神経系障害の既往がある者とした。研究デザインは,二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験とし,検査者および対象者には刺激条件をマスクした。tDCSは,DC-Stimulator(NeuroConn社製,電極サイズ25cm2)を用いた。刺激強度は2 mA,刺激時間は15分とした。電極は,両側S1もしくは両側S2への貼付とし,陽極を損傷半球側,陰極を非損傷半球側上に設置した。tDCSの介入条件は,S1直上に設置した条件(S1-anode),S2直上に設置した条件(S2-anode),それぞれの偽刺激条件の計4条件とした。偽刺激条件では,S1-anode,S2-anodeと同様の配置で電極を設置し,最初の15秒間のみ刺激を行った。刺激条件の順序は,順序効果を相殺するためにブロック化した。各刺激条件は,最低3日間以上の間隔をあけて実施した。S1,S2の刺激部位は,光学ナビゲーションシステム(Brainsight2,Rogue Research社製)を用いて,事前に計測した各対象者のMRI画像から同定した。評価は,触覚弁別課題としてGrating Orientation Task(GOT)を用いた(Johnson and Phillips,1981)。GOTは,異なる幅(1.0,1.2,1.5,2,3,4,6,8 mm)の縞が刻まれたドーム状の機器(ミユキ技研社製)を用い,検査者がその縞が縦または横となるように被験者の指に当て,対象は閉眼状態で縦か横かを答える課題である。課題の正答率からGOT閾値を求めた。GOT閾値は,下降系列で各幅の正答率を求め,規定の式を用いて,75%の正答率を最初に下回った幅から算出した(Ragert et al.,2008)。評価は,麻痺側および非麻痺側示指において,刺激前,刺激中,刺激終了から10分後に実施した。統計解析は,刺激条件と時間経過を要因とした2要因の反復測定分散分析を行い,post-hoc比較に対応のあるt検定(ボンフェローニ補正)を用いた。有意水準は5%とした。【結果】対象者の中に脱落例は認められなかった。麻痺側示指において,刺激前では,刺激条件間で有意差が認められなかった。刺激中では,S1-anode,S2-anodeともに,それぞれの偽刺激と比較して,有意にGOT閾値は低下し,その効果は刺激終了から10分後まで持続した。S1-anodeとS2-anodeの比較では有意差は認められなかった。非麻痺側示指では,刺激前,刺激中,刺激10分後のすべてにおいて,刺激条件間に有意差は認められなかった。【考察】体性感覚野へのtDCSにより,刺激中および刺激終了から少なくとも10分後まで持続的に感覚障害を有する脳卒中患者の触覚弁別能力を向上させることが可能であった。この促進効果は,S1刺激およびS2刺激のいずれの条件でも有効であった。今後,長期的な効果を検討し,感覚障害へのtDCSの適応を明らかにしたい。【理学療法学研究としての意義】本研究は,tDCSが感覚障害を有する脳卒中患者の触覚弁別能力を即時的に向上させることを世界で初めて明らかにした。これまでアプローチが困難であった感覚障害に対する理学療法の一手段としての可能性を示した点で意義がある。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575578496
  • NII Article ID
    130005248749
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1110
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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