超音波画像診断装置を用いた第1中足骨骨頭部軟部組織層の厚みの測定における検者内および検者間信頼性の検討

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  • 瀧原 純
    総合病院土浦協同病院 リハビリテーション部

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抄録

【はじめに,目的】糖尿病性足病変の主となる病因に知覚神経障害がある。その一つである運動神経障害が生じると足部内在筋に麻痺が生じ,足趾変形を招くことが報告されている。よく生じる足趾変形にhammer toe変形やclaw toe変形などが挙げられ,これらの変形では,中足趾節関節(以下MTP関節)が伸展位で拘縮するため,中足骨骨頭部の脂肪が遠位へ移動し,同部位の脂肪層が非薄化するとされている。このため,歩行時や荷重時に足底圧が高まり胼胝を形成しやすくなる。これまでの研究では足変形を有する神経障害を合併した糖尿病患者の中足骨骨頭部の脂肪層が非薄化した様子がMRIにて明らかになっている。しかし,超音波画像診断装置(以下エコー)を用いて非侵襲かつ簡便に中足骨骨頭部の脂肪層を含んだ軟部組織の厚み(以下軟部組織厚)を定量的に測定した報告は渉猟し得なかった。そこで今回,糖尿病患者の中足骨骨頭部の軟部組織の変化をより簡便に捉えるため基礎研究として,エコーを用いて健常成人の軟部組織厚を測定し,検者内および検者間信頼性を検討した。【方法】対象は健常成人男性10名20足,平均年齢33.2歳,平均BMI20.6とした。方法は被検者をベッド上で長臥位,膝関節伸展位,足関節背屈0度,第1MTP関節伸展70度とした。エコー(日立MyLabFive 18MHz)を用いて軟部組織厚の測定を行い,1回の測定でその結果を測定値とした。まず踵部から第1中足趾節関節底部までの床との接地面を想定し,第1中足骨頭部の接地面における中点にプローブを当てた。プローブにはジェルを塗り皮膚面との間に空気が入らないようにした状態で,その定点に皮膚面に対して垂直に当てた。その際,若干の押しつけ力の違いを無視して再現性のある値を得るため,プローブで押しつけ力を加えて短軸の静止画像を撮影した。軟部組織厚の計測は,エコーに内蔵されているデジタルメジャーを用いて,皮膚から中足骨骨頭部の最小の部分で行った。検者は事前に軟部組織厚の測定の練習を行った検者Aと検者Bの2名とし,検者内信頼性では被検者1人に対し1回目と2回目の測定に1日以上の間隔をおいて実施した。統計解析は,SPSS.ver18を使用し,相対信頼性として級内相関係数(以下ICC)を用い,軟部組織厚の測定の検者内信頼性(ICC(1,1)),検者間信頼性(ICC(2,1))を算出した。また,MedCalc Ver11.6を使用し,絶対信頼性としてBland-Altman分析を行い,系統誤差の有無を確認し,最小可検変化量(minimal detectable change:以下MDC)の95%信頼区域であるMDC95を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。【結果】ICC(1,1)は0.67,ICC(2,1)は0.83という数値を示した。Bland-Altman分析の結果,検者内,検者間とも加算誤差・比例誤差を認めなかった。MDC95は検者内が1.86mm,検者間が1.28mmであった。【考察】本研究でICCが検者内で「可能」,検者間で「良好」という結果となり,Bland-Altman分析により系統誤差は存在しないことが明らかになったためMDC95以上であれば「真の変化」が生じたと判断することが可能である。今回行った軟部組織厚の測定方法は信頼性のある評価方法であることが明らかになり,MDC95の結果を用いることで,臨床上有効な変化が生じているかを判断することが可能となった。本研究の測定方法は臨床で評価を行う際に有用であると考える。検者内でのICCが「可能」だった点に関しては,測定時間帯を統一しておらず,軟部組織層に日内差が存在している可能性があり,測定時間帯を統一して検討する必要がある。今後の展望として,日内差の有無の確認や被検者の年齢層別および男女別の軟部組織厚測定を行い,それらと比較して神経障害を合併した糖尿病患者や足変形を有している糖尿病患者の軟部組織厚を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】エコーを用いた軟部組織厚測定の信頼性が確認できた事で,より簡便に糖尿病患者の中足骨骨頭部の脂肪層を含んだ軟部組織層の変化を捉えられることが期待できる。

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