シニアサッカー愛好家における最大等尺性下肢筋力,膝外傷関連QOLの検討

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  • 膝外傷既往との関連について

抄録

【はじめに、目的】 膝外傷の既往は変形性膝関節症(以下膝OA)発症の危険因子であると言われている.シニア年代のスポーツ実施率は年々増加してきており,シニアスポーツ愛好家の膝OA発症予防は,レクリエーションスポーツの継続という観点からも重要である.今回シニアサッカー愛好家を対象に,膝外傷の既往が下肢筋力,膝外傷関連QOLに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした. 【方法】 対象は群馬県シニアサッカーリーグ所属する男性シニアサッカー愛好家の中で,過去に膝外傷の既往がある者13名(既往群),既往がない者13名(非既往群)とした.対象者の利き足は,既往群では右利き12名,左利き1名,非既往群では右利き12名,左利き1名であった.既往群の膝外傷の種類と内訳は,膝前十字靭帯損傷6名,膝内側側副靭帯損傷3名,膝半月板・軟骨損傷4名であり,受傷側は右8名,左5名であった.既往群,非既往群の基本属性は年齢47.2±5.3歳,50.2±4.8歳,身長169.8±4.4cm,169.1±5.3cm,体重68.3±8.9kg,70.9±5.9kgと2群間に統計学的有意差はみられなかった.既往群の受傷後プレー復帰時期から現在までの期間は14.7±8.8年であった.測定項目は基本情報収集,最大等尺性下肢筋力,膝外傷関連QOLについてのアンケートであるKnee injury Osteoarthritis Outcome Score(以下KOOS)とした.最大等尺性下肢筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(μ-TAS FI,アニマ社製:Hand Held Dynamometer;以下HHD),治療ベッドを使用し,測定する運動方向は股関節外転・内転,膝関節伸展・屈曲とした.測定姿勢は,股関節運動ではThorborgらの方法を参考にし,背臥位とした.膝関節運動では徒手筋力検査法の方法を参考にし,伸展は骨盤中間位の端座位,屈曲は腹臥位とした.また,膝関節伸展では固定用ベルトに取り付けたセンサーを下腿遠位1/3前面に固定した.全測定において,骨盤帯,体幹,頚部等の代償が出ないよう口頭指示した.対象者は十分な練習の後,検査者,固定ベルトの抵抗に抗して5秒間最大等尺性運動を行った.各運動3回測定し,各測定間には30秒の休息を入れた.単位はkgfとし,代表値は各運動3回の平均値とした.解析には平均値を体重で除した%BWを使用した.最大等尺性筋力測定後にKOOSの質問用紙を配布し,自己記入式にて調査を行った.統計学的解析は,最大等尺性筋力,KOOSにおける群間の比較には,Mann-WhitneyのU検定を用いて検討した.また,既往群の受傷側,非受傷側については下肢筋力の対称性の指標であるThe limb symmetry index(LSI)を求め,さらにWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した.各群におけるKOOSと最大等尺性筋力関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計学的処理にはSPSS 16.0J for Windowsを使用し,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】  対象者全員に対して,本研究の内容,対象者の有する権利について文書と口頭にて十分な説明を行い,参加の同意を得た上で行った.【結果】 最大等尺性筋力の群間比較では,利き足膝関節伸展において既往群66.3±14.3%,非既往群56.1±10.7と既往群が優位に高値を示した(p<0.05).また,既往群の膝関節伸展のLSIは97.2%であり,13名中8名が90%以上であった.受傷側,非受傷側の最大等尺性筋力の比較では,全運動方向において有意差はみられなかった.KOOSの群間比較では,Symptomにおいて既往群80.5±15.7%,非既往群93.7±8.1%と既往群が優位に低値を示した(p<0.05).また,QOLにおいて既往群79.3±12.9%,非既往群92.8±10.2%と既往群が優位に低値を示した(p<0.05).【考察】 既往群の膝関節伸展のLSIは95%以上であり,個人での検討においても,LSIが90%以上の者が半数以上であった.ACL再建術後,スポーツ復帰する際の膝関節伸展筋力のLSIは65-90%であると言われており,本研究では先行文献に比べ受傷側,非受傷側の下肢筋力の対称性が良好であることが示唆された.これは,今回の対象者は膝外傷受傷後プレー復帰してから10年以上経過している者が多く,その間のトレーニングなどにより非対称性が軽減したためだと考える.また,KOOSの結果より,膝外傷の既往が膝関節の機能面よりも,動作に対する自信など精神面の低下が大きいことが示された.今回,膝外傷既往者と非既往者の身体面での違いはみられなかったが,膝外傷の既往がQOLに影響を与えることが示された.今後は下肢筋力だけでなく,体幹筋力や他の身体機能,動的テスト,動作パターンなどについても検討していく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 シニアサッカー愛好家を対象に傷害調査や機能面の検討を行った研究は少ない.膝外傷既往者と非既往者の身体機能の違いを明らかにすることで,膝OA発症予防の一助となると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101876-48101876, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575760000
  • NII論文ID
    130004585999
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101876.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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