下肢伸展挙上時の骨盤圧迫が腹横筋筋厚に与える影響
説明
【はじめに、目的】 腰痛は罹患率が高く,腰痛改善を目的に骨盤底筋群や腹横筋などローカル筋群について多数報告されている.腹横筋は上肢、下肢運動に関与する筋に先行して筋活動が確認され,腰痛患者ではこの先行した筋活動が見られないことの報告がある.また治療場面ではローカル筋群の機能のみではなく体幹機能評価として股関節・仙腸関節・腰椎を一つのユニットとして捉えることも必要であり,荷重負荷時,体幹筋は腰椎と骨盤帯をコントロールし,筋膜的安定性は適切な筋力を必要とする.その評価の1つに荷重伝達評価である下肢伸展挙上がありActive Straight Leg Raising(以下,ASLR)と呼ばれている.ASLRが円滑に行えない場合は荷重伝達評価機能の低下を示唆し,腹横筋と腰部多裂筋の機能低下が考えられる.これまで骨盤ベルトを用いて荷重伝達機能を総合的に判断する報告はあるが,腹横筋に対する鑑別方法の報告はない.本研究では健常成人への徒手的骨盤圧迫の方法の違いがASLRにおける腹横筋筋厚と主観的指標の変化について明らかにすることとした.【方法】 対象は健常男子学生31名(年齢21.5±1.5歳,身長171.6±5.7cm,体重61.8±7.1kg)と,整形外科的疾患がなく,利き足を右足とする者とした.測定肢位は背臥位とし,測定課題は利き足の右下肢で股関節屈曲角度30°のASLRとした.腹横筋筋厚測定は骨盤圧迫を行わないASLR,左右腸骨稜前方から脊柱にむけて垂直に徒手的圧迫した際のASLR(以下,前方圧迫ASLR),左右上後腸骨棘を正中仙骨稜に向けて垂直に徒手的圧迫した際のASLR(以下,後方圧迫ASLR)の3条件で超音波診断装置(東京メディカルシステムズ社製)を用いて左右の筋厚測定を行った.徒手的圧迫は,ハンドヘルドダイナモメーター(μTas,F-1 ANIMA社製)を用いて圧迫力が100Nとなるようにした.筋厚測定においては前腋窩線上で肋骨下縁と腸骨稜の中点にマーキングし,プローブ(8MHz)を前腋窩線に直行するように置いた.ASLR時の筋厚が一定になった時の静止画を用いて0.1mm単位で計測を行った.各条件3回の平均値を代表値とした.主観的指標においては各測定後に口頭で聴取した.主観的指標はSemantic Differential法(以下,SD法)を用い,ASLR時の下肢の主観的な重量感を「1重い~5軽い」の5段階で評価した.統計処理は腹横筋3条件のASLRの腹横筋筋厚の比較をASLR,前方圧迫ASLR,後方圧迫ASLRの 3条件を,繰り返しのない2元配置分散分析を用いて,Tukey-Kramer法による多重比較を行った.左右の違いによる筋厚差はスチューデントのt検定を用いた.主観的指標においてはWilcoxon符号付順位和検定を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者には研究の趣旨,方法,リスクを説明し書面にて研究協力の同意を得た.【結果】 腹横筋筋厚はASLRの左右,前方圧迫ASLRの左右,後方圧迫ASLRの左右の順で4.41±0.78mm,4.37±0.82mm, 5.12±0.99mm,5.06±1.12,4.56±0.77mm,4.53±0.86mmとなった.左右筋厚の有意差はなく,前方圧迫ASLRで他条件と比較して左右ともに有意な増加がみられた(p<0.01).主観的指標の結果はASLRが3.0,前方圧迫ASLRが3.9±0.9,後方圧迫ASLRが3.7±0.8となった.ASLRと比較して,前方圧迫ASLR(p<0.01)と後方圧迫ASLR(p<0.05)ともに有意な増加がみられた.【考察】 結果から腹横筋筋厚は左右ともに前方圧迫ASLRのみで有意に増加し,主観的指標は前方圧迫ASLRと後方圧迫ASLRで有意に増加した.前方圧迫ASLRは腹横筋の起始と停止を近づけ収縮を促したこと,一方後方圧迫ASLRは起始と停止が離れるように徒手的圧迫を加えたため,収縮を促通できず筋厚に有意差がみられなかったと考えられる.しかし主観的評価では前方圧迫ASLRと後方圧迫ASLRでともに有意な改善がみられたことから後方圧迫ASLRでは腹横筋以外の筋の影響が考えられ,今後検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,臨床的に行われている骨盤圧迫状態でのASLRを行うことで腹横筋筋厚の増加と主観的指標の上昇が起こることがわかった.前方圧迫ASLRが腹横筋筋厚を選択的に筋厚増加させる方法となることが明らかとなった.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48102077-48102077, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205575976064
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- NII論文ID
- 130004586146
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可