骨盤底筋リリース手技が側腹筋厚に与える影響

説明

【はじめに、目的】 体幹,骨盤帯を安定させるためには多くの筋群が関与している.特にローカル筋群の活動に体幹を安定させる重要な役割があるとされており,中でも腹横筋は体幹の最深部に位置する筋で,横隔膜,骨盤底筋群とともに腹腔内圧の上昇に関与し,腰椎骨盤領域の安定性に重要な役割があるとされている.また,腹横筋は腰痛の有無によって筋活動の低下および遅延が起こることが報告されており,そのような症例に対し,骨盤底筋群へのアプローチが有用であると報告されている.しかし,実際に骨盤底筋群へのアプローチが腹横筋の活動を増加させるかを検討した報告はない.そこで本研究では,超音波画像診断装置を用いて骨盤底筋群へのアプローチが腹横筋(TrA)筋厚,内腹斜筋(IO)筋厚,外腹斜筋(EO)筋厚に及ぼす影響について検討すること,また荒木の報告をもとに骨盤底筋群へのアプローチの有用性を示すことを目的とした.【方法】 対象は,腰痛の既往のない健常男性18名(年齢:21.1±2.1歳,身長:173.4±5.4cm,体重:63.4±5.0kg)とした.計測機器は超音波画像診断装置(東京メディカルシステムズ社製)を用いた.測定肢位は背臥位とし,股・膝関節が90°となるようにした.また,腰部に40mmHgに加圧した圧バイオフィードバック装置(CHATTANOOGA社製)を挿入し,測定の際,圧を一定に保つように対象者に指示した.超音波画像診断装置により左右のTrA,IO,EOの安静時と収縮時の筋厚を各3回ずつ測定した.測定するプローブ位置を一定にするため,前腋窩線における肋骨縁と腸骨稜の中央にマーキングを行い,プローブ(8MHz)は前腋窩線に直行するようにおき,プローブの中央が前腋窩線状にくるよう統一した.超音波静止画像上の筋厚は,筋膜の境界線を基準にTrA,IO,EOについて0.1mm単位で測定した.収縮時の測定は,安静呼吸時の呼気後に吸気に移行しないようにして息を止め,脊椎や骨盤を動かさないように下腹部を引きこむよう指示し,その最終時点での筋厚を測定した.超音波画像を計測後,側臥位にて軽度股・膝関節屈曲位をとり,腹横筋厚が少なかった側に対して骨盤底筋のリリース手技を行った.手技は,殿裂と仙結節靱帯の間から尾骨筋を軽く圧迫し,30秒間保持した.その際,圧が一定になるようハンドヘルドダイナモメーター(Hoggan Health社製)を用い,70Nを目安に圧迫した.手技実施後,実施前と同様の手順でTrA,IO,EOについて筋厚計測を行った.統計処理に関しては,3回の測定結果の平均を代表値とした.各筋の実測値の介入前後について対応のあるt検定を用いて分析した.また,介入前・後の各筋の収縮時から安静時を減じた変化量を手技実施側,非実施側それぞれを対応のあるt検定を用いて分析した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に対して,事前に書面及び口頭で本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た上で実施した.【結果】 収縮時から安静時を減じた筋厚は,TrAは介入前の手技実施側2.18±1.01mm,非実施側2.84±1.38mm,介入後の手技実施側2.54±1.26mm,非実施側2.82±1.25mmであった.IOは介入前の手技実施側2.32±2.08mm,非実施側2.49±2.78mm,介入後の手技実施側2.47±2.65mm,非実施側2.33±2.50mmであった.EOは介入前の手技実施側0.73±0.82mm,非実施側-0.91±0.98mm,介入後の手技実施側-1.00±0.73mm,非実施側-1.08±1.03mmであった.介入前後でのTrA,IO,EOにおける筋厚変化量を手技実施側,非実施側で比較した結果,TrAにおいて介入前には有意差が認められ(p<0.05),介入後に有意差は認められなかった.IO,EOに関しては,介入前後ともに有意差は認められなかった.また,各筋の実測値を介入前後で比較した結果,全ての要因で有意差は認められなかった.【考察】 手技は介入前に左右でTrA筋厚が少なかった側に行った.介入前後それぞれの収縮時から安静時を減じた変化量を手技実施側,非実施側で比較した結果,TrA筋厚において介入前には有意差が認められたが,介入後に有意差は認められなかった.これより,手技を行ったことによりTrAの左右差が減少していることが示唆された.先行研究よりTrAの随意収縮が骨盤底筋の活動と関連していることが報告されている.本研究において,手技により骨盤底筋を圧迫したことによって,骨盤底筋の緊張が弛緩したことが推測される.TrAを意識して収縮させる場合にも,骨盤底筋は同時に収縮しているため,骨盤底筋が収縮しやすくなったことでTrAの収縮も促されたと考える.【理学療法学研究としての意義】 TrA収縮を再教育することは困難なことが多いため,今回行った骨盤底筋への手技は,無意識に収縮を促通できる方法として有効であると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102078-48102078, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575977344
  • NII論文ID
    130004586147
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102078.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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