脚長差モデルにおける歩行時腓腹筋の量的及び質的機能の検討

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抄録

【目的】 脚長差が3cm以下であれば著明な跛行を呈さないという報告が多い.一方,代償方法に関しては,2,3cm程度の脚長差においても認めるという報告がある.神先らによると,短脚側の立脚期における垂直方向への床反力の極値は,第1峰,2峰ともに,脚長差の増大に伴って増加すると報告されている.特に第2峰における極値の増大は,身体を前進させる一因である腓腹筋の筋活動による代償を疑わせるが,詳細な報告はされていない.そこで,本研究の目的は,脚長差を有する歩行(以下,脚長差歩行)における短脚側腓腹筋の筋活動を明らかにするため,表面筋電図(以下,EMG)を用いて量的及び質的機能を検討することとした.【方法】 対象は中枢神経疾患及び整形外科疾患を持たず,脚長差を有さない健常者8名(男性6名,女性2名,25.8±2.4歳)とした.被検者には,測定前に電極(Ambu社)を腓腹筋外側頭に,アースを腓骨頭に,フットスイッチを踵にそれぞれ張り付けた.測定では,16m歩行路にて自由歩行を指示し、前後3mを除いた10mを解析対象とした.まず正常歩行として,脚長差0cmでの歩行を行った後,左側に1,2 ,3 cmにそれぞれ調整したマイクロセルポリマーシート(ロジャースイノアック社)を足底全面に張り付けた靴を着用させ,脚長差量を順番に増加させて歩行を計測した.なお,増加させるたびに,歩行路にて3往復の歩行練習を行わせた. 解析には,無線式EMGシステムKm-Mercury(メディエリアサポート企業組合社製)を用いて,歩行時の積分筋電図解析と周波数パワースペクトル解析を実施した.歩行時のEMGは,フットスイッチを用いて1歩行周期を確認し,被検者の歩行周期時間を100%に換算した.量的評価として,得られたEMG波形は全波整流後,歩行周期5%で平滑化処理を行い,1名あたり10歩行周期分のEMGを抽出し加算平均(以下,IEMG)した。質的評価として,MATLAB Ver.5.1(Mathworks社)で,Gabor関数を用いた連続wavelet変換による周波数解析を行った.解析の周波数帯域は12.5Hz~200Hzとし,歩行周期5%毎の中間周波数(以下、MdPF)を算出した. 算出したデータを用いて,腓腹筋の活動が高まる立脚中期,後期に相当する時期として,歩行周期15%から50%において,IEMGの積分値とピーク値出現時期及びピーク値を算出した.MdPFに関しては同時期の積分値のみ算出した.積分値とピーク値は脚長差ごとに正常歩行に対する比(脚長差の値/正常歩行の値)を求め,差を比較検討した.ピーク値出現時期は正常歩行に対する比を求めず,得られた値を用いて比較検討した.なお,統計処理は,Wilcoxonの符号付順位和検定を用い,危険率は5%未満を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的及び方法を被検者に十分に説明し,同意を得て行った.【結果】1.IEMG 積分値の比はどの脚長差でも有意差を認めなかった(P≧0.05).ピーク値出現時期はどの脚長差でも有意差を認めなかったが(P≧0.05),ピーク値の比は2cm,3cmの脚長差で有意に増加していた(P<0.05).2.MdPF  積分値の比は1cm,2cmの脚長差では有意差を認めなかったが(P>0.05),3cmの脚長差では有意に増加していた(P<0.05).【考察】 腓腹筋の筋活動は歩行周期の40%でピークを迎えるとされており,すべての脚長差におけるIEMGのピーク値出現時期にほぼ一致していた.一方,ピーク値は脚長差2,3cmにおいて有意に増加しており,脚長差の増大に対する腓腹筋の筋活動の反応として,ピークにおいて時期的な変化は示さないが,筋活動の増加を示すという結果が得られた.今回得られた腓腹筋の筋活動の量的機能変化は,前述した神先らの報告と,同じ脚長差増大による反応として共通しており,床反力の垂直方向への極値増加の一因として,腓腹筋の筋活動増加が示唆された.MdPFに関しては,脚長差3cmにおいて積分値の増加を認めた.IEMGではピーク値の上昇を認めており,サイズの原理より,運動強度の増加に伴ってタイプ2線維の動員数が増加したと考えられた. 以上より,脚長差歩行を分析する際には,3cm以下の脚長差においても,腓腹筋筋活動の量的,質的機能変化を考慮する必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 脚長差を有する疾患として,変形性股関節症(以下,OA)がある.建内らは,人工股関節全置換術術後の理学療法においては,再建された股関節を動作の中で有効に活用し,動作能力を向上させることが重要な課題であると述べている.脚長差による代償的な筋活動を明らかにすることで,手術による構造的要因の変化だけでは解決されない,術後の跛行に対する理学療法展開の一助となると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102083-48102083, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575984256
  • NII論文ID
    130004586150
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102083.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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