脳卒中片麻痺患者における脚clearance戦略についての一考察 第2報
書誌事項
- タイトル別名
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- ~麻痺側立脚期の身体重心位置がpre-swing時の重心移動速度に与える影響~
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説明
【はじめに、目的】脳卒中片麻痺患者の理学療法を展開する上で、麻痺側のclearance低下を主体とする歩行障害をよく経験する。先行文献等によると、clearance低下は麻痺側の膝関節屈曲や足関節背屈などを中心とする麻痺側下肢の屈曲機能不全が、主な原因として捉えられていることが多い。その為、装具療法や運動療法において足関節背屈を基盤とする治療が行われることがある。しかし、この事が逆にclearance低下や重心移動の停滞を生じる一要因となり得ることが少なくない。過度な麻痺側屈曲機能へのアプローチは麻痺側の支持性低下や立脚期での重心位置低下を招き、麻痺側pre-swing(以下PSw)時に非麻痺側脚延長を阻害し、身体重心の上方移動が要求される一因となる可能性が考えられる。我々は第47回日本理学療法学術大会において、脳卒中片麻痺患者はclearanceの確保に麻痺側と非麻痺側での機能的脚長差を生み出すことが必要であるとの報告を行った。そこで今回、歩行が循環運動であることに着目し空間的だけではなく時間的相互作用があると考え、麻痺側立脚中期(以下MSt)での重心位置低下や下肢関節の屈曲角度増大が麻痺側のPSw時の重心移動速度にどのような影響を与えるかを検証した。【方法】対象は当院入院中の脳卒中片麻痺患者8名(男性8名、平均年齢66±7.9歳、身長161±5.5cm、体重59±6.8kg)とした。歩行自立度は監視5名、自立3名で、下肢Brunnstrom stageはⅢが2名、Ⅳが4名、Ⅴが2名であった。測定には3次元動作解析システムVICON370(OXFORD METRICS社製)を用い、サンプリング周波数60Hzの赤外線カメラ6台で計測した。マーカは臨床歩行分析研究会推奨のDIFF15マーカの位置を参照に、左右の肩峰、肘頭、手関節中央、上前腸骨棘と大転子を結んだ線の下から1/3、膝関節裂隙、足関節外果、第5趾中足骨骨頭及び右上後腸骨棘に貼付し、10歩行周期分を計測した。得られたデータをDIFF形式に変換し歩行速度、下肢関節角度、身体重心位置を算出した。解析は、麻痺側PSwでの身体重心移動速度とMSt(足関節中心上に股関節中心が来る相)の麻痺側下肢関節角度及び身体重心高位、側方・前後偏位量を比較検討した。それぞれの相関をPearsonの相関係数を用い、有意水準は5%未満とし、統計処理を行った。【倫理的配慮、説明と同意】研究対象者には、研究内容を十分に説明し、書面にて本研究の趣旨に同意を得た。【結果】歩行周期全体の中で麻痺側PSw時に重心移動速度が全例で低下する傾向が見られた。麻痺側MSt身体重心高位とPSwでの歩行速度において、8例全例で正の相関が認められた(r=0.69~0.89、P<0.05)。麻痺側MStの重心前後位置や側方移動量と麻痺側PSwでの歩行速度には一定の相関関係は認められなかった。また、麻痺側MStでの麻痺側下肢関節角度と麻痺側PSwでの歩行速度においては、一定の相関関係は認められなかったものの個人内においては、股関節伸展・外転、膝関節伸展、足関節底屈に単独で正の相関関係が認められるものがみられた。【考察】脳卒中片麻痺患者の歩行周期全体の中で、PSwで最も歩行速度が低下していたことに関しては、健常者を対象とした研究と相違していた。このことは、clearanceを確保するため機能的脚長差を生み出すなどの戦略が要求されたことが原因と考えられる。また、本来両側支持期であるPSwは運動エネルギーが最大となる相であり、この相で位置エネルギー・運動エネルギーともに低下が見られることは脳卒中片麻痺患者の歩行のエネルギー効率低下を来たしている要因と考えられる。麻痺側MStの重心高位と麻痺側PSw時の歩行速度に相関がみられたことに関しては、重心位置をより高位に保つことでPSw時に過度な重心上方移動が要求されず、スムーズなエネルギー伝達や重心移動が可能となったものと思われる。また、下肢関節角度と一定の相関が見られなかったことに関しては、重心を高位に保つ機構がそれぞれの被験者によって異なっていたことが理由として考えられる。【理学療法学研究としての意義】歩行運動は、立脚期と遊脚期の循環運動であり、相互に関係を持っていると考えられる。脳卒中片麻痺の理学療法を展開する上で、麻痺側の立脚期において重心を高位を保つ機構がどの関節運動と関連しているかを把握し、PSwでの歩行速度の低下やclearance低下に対してアプローチ出来るかは重要な評価の一指標となると考えられる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48102005-48102005, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205576024960
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- NII論文ID
- 130004586097
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可