要支援・要介護認定者における転倒と自宅の住環境及びバランス能力との関連について

DOI
  • 田中 渉
    (有)ケアパック石川 リハビリ訪問看護ステーション
  • 小堺 武士
    (有)ケアパック石川 リハビリ訪問看護ステーション
  • 山崎 雅也
    (有)ケアパック石川 リハビリ訪問看護ステーション 金沢大学大学院医学系研究科

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抄録

【はじめに】 近年の転倒に関する研究では認知機能や自己身体機能の予測能力など、バランス能力以外の影響についても報告されているが、住環境との関連についてはほとんど報告されていない。それにも関わらず、住環境が転倒の要因として重要だと述べられていることが多い。また、要支援・要介護認定者は心身の不自由により生活範囲が狭くなり自宅で過ごす時間が多くなっているため、自宅の住環境は特に重要であると考えられる。そこで、本研究では要支援・要介護認定者を対象として住環境の整備及びバランス能力が転倒に影響するかを検討した。【方法】 当ステーションを利用している要支援・要介護認定者で、自宅内の移動を歩行(移動補助具の使用を含む)で自立している57名(男性31名、女性26名、平均年齢74±10歳)を対象とした。 転倒歴は、本人、家族、訪問リハビリの各担当セラピスト及びカルテから、過去1年間の転倒経験の有無、回数、転倒発生場所やその状況について聴取した。 住環境の整備は「ベッド周囲」、「トイレ」、「居間」、「部屋の敷居」、「浴室」、「玄関」、「自宅前」の7箇所について環境が整備されているかを訪問リハビリの各担当セラピストから聴取した。環境整備は足元にある段差などを平面的要因、手すりなどの掴まる物を空間的要因とし、それぞれ2要因で評価した。「浴室」、「玄関」、「自宅前」は空間的要因のみ評価したため、環境整備は平面的要因と空間的要因の合計11項目を評価した。さらに、環境整備が出来ている場合を1点、出来ていない場合を0点として、11項目の合計点を環境整備(総得点)0点~11点で算出した。 バランス能力はBerg Balance Scale(以下、BBS)を訪問リハビリの各担当セラピストが対象者の自宅で測定した。 統計学的分析は、転倒経験のある「転倒群」と転倒経験のない「非転倒群」の2群に分けて行った。環境整備(総得点)、BBSは対応のないt-検定を行ない、各場所における環境整備の有無はカイ二乗検定を行った。尚、統計解析にはR2.8.1を使用し、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 対象者には本研究の目的及び内容を説明して同意書にて承認を得た。【結果】 転倒歴があった者は26名(46%)、転倒を繰り返す者がいるため転倒の発生回数は43回であった。転倒の発生場所は居間が13回、玄関、屋外、浴室が5回、ベッド周囲が4回、自宅前、トイレが3回、部屋の敷居が1回、その他が4回であった。 環境整備(総得点)は転倒群が平均7.5±2.4点、非転倒群が平均7.0±2.8点であり、両群に有意差がみられなかった。各場所における環境整備の有無で比較した結果、両群に有意差がみられた項目は部屋の敷居の環境整備(空間的要因)のみで、それ以外は有意差がみられなかった。 BBSは転倒群が平均38.2±9.6点、非転倒群が平均39.9±11.0点であり、両群に有意差がみられなかった。【考察】 転倒を経験している者は46%存在しており、先行研究と比べて高い転倒率になっている。本研究ではBBSが転倒群で平均38.2点、非転倒群で平均39.9点という結果になっており、転倒リスクが非常に高いとされる36点に近い者が本研究の対象になっていることが影響したと考える。このことからも、本研究の対象である訪問リハビリを利用している要支援・要介護認定者はバランス能力が低い状態で在宅生活をしていることが示唆され、訪問リハビリでは転倒予防に対するプログラムの重要性が高いと考える。 転倒群と非転倒群においては、両群でBBS、環境整備(総得点)に有意差がみられず、バランス能力や住環境の整備は転倒の直接的な要因にならないことが示唆された。しかし、転倒は多種多様な要因が重なり合うことで発生すると考えられ、今後は住環境だけでなく生活リズムや暮らしに関わるその他の要因についても検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 住環境の整備はADLのパフォーマンスを向上させるために有効な手段であると思われ、実際に訪問リハビリの臨床でも多く実施される内容であるが、環境整備をしたことで転倒を完全に予防出来ているわけではない。本研究では転倒予防を目指した住環境の整備をどのように評価すれば良いかは明らかにならなかった。しかし、転倒予防に効果的な住環境の整備は理学療法士として身につけたい知識・技術だと考え、今後さらなる検討が必要である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101182-48101182, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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