歩行と片脚立位移行動作における下肢体幹の運動学的挙動の関連性
説明
【はじめに、目的】片脚立位は、その保持時間が評価として用いられる事が多く、2006 年に提唱された「運動器不安定症」の診断基準ともなっている。一方、阿南らは、簡便な歩行の評価方法の一つとして、片脚立位姿勢のアライメント評価を紹介し、理学療法における臨床でも行われることが多い評価方法である。また、両脚立位から片脚立位への移行動作は、姿勢制御に関する研究で用いられる。健常者の姿勢制御における骨盤の動きの重要性や、高齢者における股関節および体幹の運動学的挙動の変化が報告されており、体幹・骨盤の姿勢制御への関与が重要視されてきている。姿勢制御課題における体幹・骨盤の運動学的挙動は、歩行中の動的アライメントと関連することが予想される。しかし、片脚立位アライメントや片脚立位移行動作と歩行中の動的アライメントとの関係を実際に検討した研究は少なく、その関係は不明確である。本研究の目的は、歩行と片脚立位移行動作における体幹、骨盤、股関節の運動学的挙動の関連性を検討することである。【方法】対象は、整形外科的および神経学的な疾患の既往のない健常成人11 名(26.5.± 3.1 歳、162.5 ± 8.3cm、55.8 ± 9.7kg)とした。歩行課題はトレッドミル上、20 秒間の自由歩行とした。片脚立位への移行動作(以下、移行動作)は、音刺激後に出来るだけ速く、両脚立位から片脚立位になるように指示し、その後、片脚立位姿勢を約3 秒間保持させた。拳上側下肢の全足底離地を片脚立位への移行点と定義し、foot switchを用いて同定した。各課題中の前額面上における体幹傾斜、骨盤傾斜、股関節内・外転の角度を3 次元動作解析装置Kinema Tracer(KISSEI COMTEC 社)を用いて計測した。体幹傾斜は支持側下肢方向への傾斜、骨盤傾斜は遊脚側骨盤の拳上、股関節は外転をそれぞれ正と定義した。歩行は一歩行周期を100%として換算した。得られたデータから、初期接地から荷重応答期(0 〜12%)および立脚中期(0 〜31%)までの角度変化量を算出、また、移行動作に関しては、移行点および片脚立位保時中(以下、片脚支持期)の角度を記録し、静止立位からの変化量を算出した。算出した角度を用い、各課題それぞれ対応するセグメントとの関連を検討した。また、歩行時の体幹傾斜と骨盤傾斜に関しては、立脚期(0 〜60%)の平均値を算出し、移行動作での各運動学的挙動との関連を検討した。統計学的検討には、Pearson の相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には文書にて研究内容の説明を行い、署名入りの同意書を求めた。本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会に申請し、承認を得た。【結果】荷重応答期と移行動作との関係では、遊脚側股関節内・外転と移行点での拳上側股関節内・外転(r=0.63、p<0.05)、立脚側股関節内・外転と片脚支持期の支持側股関節内・外転(r=0.63、p<0.05)、荷重応答期の体幹傾斜と片脚支持期での体幹傾斜(r=0.63、p<0.05)に有意な相関を認めた。立脚中期との移行動作との関係では、立脚中期の体幹傾斜と片脚支持期の体幹傾斜に相関を認めた(r=0.72、p<0.05)。他に、有意な相関は認めなかった。また、歩行立脚期における平均骨盤傾斜角度と、移行点および片脚支持期の体幹傾斜に有意な負の相関を認めた(r=-0.65、p<0.05、r=-0.80、p<0.01)。【考察】本研究結果から、移行動作は歩行中の動的アライメントを反映することが示唆された。また、移行動作での支持側への体幹傾斜と、歩行中の遊脚側骨盤下制に有意な相関を認めたことは、健常成人においても、姿勢制御戦略(動作パターン)に個人差がある可能性を示唆したものと思われる。歩行時の骨盤下制が大きい者は、単純な片脚立位への移行動作では、体幹傾斜により骨盤下制を防いでいるが、複雑な連続動作である歩行では体幹傾斜せず、骨盤下制が大きくなった可能性が考えられる。さらに、本研究では、片脚立位保持姿勢のみではなく、移行点でも歩行中の動的アライメントとの関係を認めた。片脚立位保持が困難な有疾患者や高齢者に対する評価および治療を行う場合、片脚立位保持にこだわらず本研究で定義した移行点に着目することも有用である可能性が示唆された。今後は、筋電図学的な検討や、また高齢者や有疾患者での検討が課題である。【理学療法学研究としての意義】本研究は、より単純な姿勢制御課題での下肢体幹の運動学的挙動が歩行に影響する可能性、および片脚立位移行点に着目する有用性を示唆した。臨床における評価・治療の一助になると思われる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101219-48101219, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205576277888
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- NII論文ID
- 130004585514
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可