下肢および頭部の血流動態に注目した 空気圧免荷トレッドミル歩行の安全性の検証

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抄録

【はじめに、目的】整形疾患や脳血管障害の急性期には安静が求められ、下肢においては損傷組織修復のため免荷が必要となる。長期間の免荷による下肢体幹の筋力低下や神経筋支配の変化からくる歩容の稚劣化を最小限に抑えるためには、早期から歩行リハビリテーションを開始することが望ましいが、その際、損傷組織への負荷をいかに軽減するかが課題となる。この問題を解決するため、介助者を伴った歩行や杖などの使用・水中歩行・懸垂装置を併用したトレッドミル歩行など種々の方法が考案されている。しかし人的資源の不足や感染リスクなどそれぞれに利点と難点を内抱しているのが現状である。Cutukら(2006)は空気圧を利用して対象者の荷重を減ずるという手法(Lower Body Positive Pressure: 以下LBPP)を用いたトレッドミルを開発したが、この装置の有用性および下肢に対して加圧することによる循環器系への影響の検証は未だ途上である。そこで今回、LBPPの原理を利用した装置を開発し、この装置での歩行の際の下肢および頭部の血流をレーザー血流計にて測定した。本研究の目的は、LBPPトレッドミル歩行時の血流動態を観測し、同装置の安全性評価の一助とすることである。【方法】開発した空気圧免荷トレッドミルを使用し、13名の健常被験者(平均24.6歳)にて実験を実施した。空気圧免荷トレッドミル内で順次圧力を上昇させ、0kPa(大気圧)、5kPa(37mmHgの上昇に相当)、6.7kPa((同50mmHg)のところでそれぞれ30秒の静止時間を経た後、時速4kmにて1分間歩行し、血流量を大気圧下歩行時のものと比較した。測定部位は足背部・下腿内側・大腿後面中央および前頭部とした。さらに、各圧力条件下で、静止立位時と歩行時の血流量の変化も比較した。レーザー血流計はCyber Farm社CDF-2000を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属大学の倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には事前に説明を実施し、書面にて同意を得た上で実験を開始した。【結果】前頭部血流は0kPa、5kPa、6.7kPaの圧力条件下でそれぞれ平均23.16、20.80、20.65(ml/秒)と圧力上昇に伴って有意に減少した(P<0.05)。大腿後面および下腿においても82.55、73.16、63.60および88.14、76.75、71.74と有意な減少が認められた(P<0.05)。足背では120.94、120.79、114.64と、有意な減少は認められなかった。各圧力条件下での歩行時の血流増加は、前頭部では11.93、6.25、5.81と圧力上昇にしたがって減少したが、その減少幅は高圧条件下において低下し、高圧2条件間での比較(5kPaと6.7kPa)では有意な差を認めなかった。大腿部と下腿部においても、80.24、52.70、47.31、および82.04、58.96、53.97と、有意な減少を認めつつも(P<<0.05)その減少幅は高圧条件下にて低下した。【考察】歩行時の血流量について、当初は圧力上昇とともに足背・下腿部および大腿部でのみ減少し前頭部においては増加すると予測していた。しかし、前頭部についても血流量は減少した。加圧によって押し上げられた血液によって前頭部の血流量は増加するとの予測であったが、結果はむしろ逆であった。また、各圧力条件下での静止立位時と歩行時の血流量差を測定したのは、歩行によって起こる血流変化に対する加圧の影響を検証するためであったが、こちらも前頭部での血流増加は加圧によってかえって減少し、またその影響は加圧量が高いほど増大することが示された。LBPPに対する生理的反応の検証としてはShiら(2006)が血圧の急激な変化に対しての負のフィードバック機構であるバロー反射への影響を調査し、加圧条件下ではその感受性が低下すると述べている。また彼らは、加圧量の変化に対応する緩衝機構の存在にも言及している。本実験の結果もこれと一致するものであり、このことから、LBPP歩行は少なくとも、循環器系・心血管系に性急かつ過大な変化をもたらす可能性は低いと考えられた。また微小重力環境に暴露されたラット(Waki et al. 2005)や宇宙飛行士(Eckberg et al. 2010)においてもバロー反射感受性の低下が報告されており、宇宙空間滞在の初期における体液分布の変化が、LBPPと類似しているとの可能性も示唆されている。【理学療法学研究としての意義】LBPP下では免荷状態での歩行が可能であるが、リハビリテーションにおいて真に有用な選択となるには、循環器系・心血管系への有害な負担が少ないことを示す必要がある。その検証は未だ十分ではないが、本研究ではLBPP歩行では前頭部の血流動態へ有害な影響が及ぶ可能性は低いという知見を得た。LBPPは脊髄損傷後の起立性低血圧や宇宙から帰還後の心萎縮に対するリハビリテーション手段としての利用も検討されており、同装置の安全性・有用性を検証することは将来におけるリハビリテーションの可能性を拡げる上で重要であると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101214-48101214, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576283264
  • NII論文ID
    130004585509
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101214.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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