マウス神経障害性疼痛モデルに対する経皮的末梢神経電気刺激(TENS)の効果 -行動学的評価および脊髄グリア細胞の細胞数および形態的評価からの検討-

DOI
  • 松尾 英明
    福井大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 内田 研造
    福井大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 中嶋 秀明
    福井大学医学部器官制御医学講座整形外科学領域
  • 渡邉 修司
    福井大学医学部器官制御医学講座整形外科学領域
  • 竹浦 直人
    福井大学医学部器官制御医学講座整形外科学領域
  • 吉田 藍
    福井大学医学部器官制御医学講座整形外科学領域
  • 久保田 雅史
    福井大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 嶋田 誠一郎
    福井大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 馬場 久敏
    福井大学医学部器官制御医学講座整形外科学領域

抄録

【はじめに、目的】神経障害性疼痛は、末梢神経あるいは中枢神経の機能障害や損傷により引き起こされ、臨床症状として、アロディニア、痛覚過敏、持続痛や自発痛をもたらし、日常生活活動に障害をきたし、生活の質の低下を招く。経皮的末梢神経電気刺激(以下TENS)は、神経障害性疼痛患者に対して、疼痛の緩和を目的にリハビリテーション領域で行われてきた治療手段の一つである。先行研究においてTENSは、神経障害性疼痛患者あるいは神経障害性動物モデルを対象に有効である可能性が報告されているが、組織学的検討を行った報告は少なく、その作用機序については十分に明らかにされていない。近年、神経障害性疼痛の発現や持続の作用機序の一つとして脊髄後角のmicrogliaやastrocyteの細胞数の増加やmicrogliaの肥大化といったグリア細胞の活性化が関与していることが報告されている。しかしながら、TENSが脊髄後角のグリア細胞の細胞数や形態に作用するかどうかは明らかになっていない。そこで本研究の目的は、マウス神経障害性疼痛モデルに対するTENSの効果を行動学的評価および脊髄後角におけるグリア細胞の免疫組織化学的評価から検討する事とした。【方法】対象は9 週齢ICRマウス(n=24)とした。神経障害性疼痛モデル群であるspared nerve injury (以下SNI)術を施行したマウスをSNI群、SNI術後にTENS治療を行ったマウスをTENS群、Sham手術を行ったマウスをSham群とした。SNI手術は、左坐骨神経の分枝である左総腓骨神経、左脛骨神経を6-0 絹糸で結紮し、遠位部を切断し、左腓腹神経を温存する手術である。TENS群には、SNI術後翌日からTENSを行った。TENSは、電気刺激装置を使用し、左側の腰髄支配領域である傍脊柱筋の直上の皮膚を刺激した。TENSは、麻酔下にて行い、周波数100Hz、刺激強度は筋収縮が生じない最大強度、刺激時間は30 分間とし、毎日1 回実施した。行動学的評価は、痛覚検査装置を使用し、左後肢を機械的刺激および熱的刺激に対する疼痛閾値ついて評価した。機械的刺激に対する疼痛閾値の評価として、漸増する圧刺激を足底に加え、逃避反応が生じた際の圧力を評価するPaw pressure testを実施した。熱的刺激に対する疼痛閾値の評価として、輻射熱刺激装置を用いて、一定の熱刺激を足底に加え、逃避するまでの時間を評価するHargreaves testを実施した。モデル作成前に行動学的評価を行い、モデル作成翌日から7 日間毎日、行動学的評価とTENSを行い、8 日後に潅流固定を行った。免疫組織化学的評価として、L4 髄節の脊髄を取り出し、20 μmに薄切し、microgliaのマーカーであるIba1、astrocyteのマーカーであるGFAPにて免疫染色を行い、脊髄後角表層における各マーカーの陽性細胞数およびmicrogliaの形態評価を実施した。統計は、一元配置分散分析ののち、Bonferroniの多重比較を行い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、実験動物に対する処置などの取り扱い方法について福井大学動物実験委員会の承認を得て実施している。【結果】SNI群では、術後1 日目から7 日目まで継続して、Sham群と比較し、Paw pressure testにおける逃避反応を生じる際の圧力が有意に低い値を示した。TENS群では、SNI術後翌日には逃避反応を生じる際の圧力が低い値を示したが、術後2 日目から7 日目まで徐々に逃避反応を生じる際の圧力が増加した。術後3 日目から7 日目まで、TENS群はSNI群に比較し、逃避反応を生じる際の圧力が有意に高い値を示した。免疫組織化学的評価では、Iba1 陽性細胞数は、Sham群に比較しSNI 群で有意に増加していたが、SNI群に比べTENS群で有意に減少していた。また、形態評価では、Sham群に比較しSNI群は、多くの肥大化したIba1 陽性細胞を認めたが、SNI群に比較しTENS群では肥大化したIba1 陽性細胞は減少傾向を認めた。GFAP陽性細胞数は、Sham群に比較しSNI群では有意に増加していたが、TENS群ではSNI群と比較し減少傾向を認めた。【考察】神経障害性疼痛モデル動物に対するTENSは、疼痛閾値の低下を抑制する事が報告されており、本研究もこれを支持する結果であった。また、神経障害性疼痛モデル動物では、脊髄後角のmicrogliaが活性化し、炎症性サイトカインなどの様々な疼痛物質を放出し、痛覚伝達を増強する事が報告されている。本研究結果より、神経障害性疼痛モデル動物に対するTENSは、脊髄後角表層におけるmicrogliaの活性化の抑制に関与した可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】神経障害性疼痛モデルに対するTENSの効果を行動学的評価から検討した報告は散見されるが、組織学的評価から検討した報告は少ない。本研究は、神経障害性疼痛に対するTENSの鎮痛効果およびメカニズムを基礎研究から明らかにしようとするものであり、理学療法研究として意義があると考えている。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101271-48101271, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576344576
  • NII論文ID
    130004585548
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101271.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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