筋電図解析による大腿四頭筋のマッスルセッティングにおける内側広筋強化法の検討

説明

【はじめに、目的】変形性膝関節症などの膝関節疾患では内側広筋,なかでも斜走線維(VMO)が萎縮を起こしやすい.VMOは膝蓋骨のアライメント保持,動的な安定として作用する.VMOの筋萎縮は外側広筋(VL)との筋力比(VMO/VL比)が不均等となり膝蓋骨が外側偏位を起こし,膝蓋大腿関節痛の要因となる。本研究は内側広筋強化の効果的な方法を検証することを目的として、股関節外転外旋位のマッスルセッティング(QS)と、さらに膝蓋骨を徒手的に内側方向へ偏位させたパテラセッティング(PS)について筋電図解析によるVMO/VL比を用いて検討した.【方法】対象は健常成人男性34名(21.8±1.2歳)とし、QS群17名,PS群17名とした.測定肢位は背臥位,股関節外転20°最大外旋位とし膝下にタオルを敷き,膝関節屈曲10°とした。足関節背屈位で最大努力での膝関節伸展によりタオルを押しつぶすように指示を統一し5秒間の最大等尺性収縮に続く5秒間の弛緩を連続3回反復させた.表面筋電計(ノラクソン社製テレマイオ2400)を使用し,VMOは膝蓋骨内側の上角から4横指近位部,前額面上で50°内側上方に,VLは膝蓋骨外側の上角から5横指近位15°外側上方に電極を貼付し,アースは膝蓋骨中央に貼付した.筋電データは整流処理後,安定した3秒間について3回の平均値を算出し、単位時間あたりに換算して積分筋電図(iEMG)を算出した。VMOのiEMGをVLのiEMGで除して%VMO/VLを算出しVMO/VL比とした.統計処理は, 対応のないt検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の主旨と方法を口頭と書面にて説明し,参加の同意を得て実施した.【結果】VMO/VL比はQS群121.2±37.1%,PS群153.7±53.1%であり、QSに比較しPSが高値を示した(P=0.023).VMOの強化法として股関節外転外旋位で膝蓋骨を徒手的に内側偏位させるPSが有効であると示唆された.【考察】膝蓋骨に対する大腿四頭筋牽引の方向はQ角によって決まると考えられている.このため,膝蓋骨正中位での膝蓋骨の牽引方向は,やや外側上方へ向く。VMOは大腿骨に対し45~55°の角度を有している .また,VMOは膝関節伸展筋としては作用せず,膝蓋骨を内側へ引き大腿四頭筋の外側への牽引力に対して膝蓋骨を中央にとどめ,アライメント保持に作用するとされている .また,VMOは内側方向に走行して直接膝蓋骨に連結していることから,膝蓋骨の安定性を高める上では理想的な走行となっており,動的な安定として作用する.本研究の結果より,QS群に比べてPS群では,膝蓋骨が内側偏位し,VL,RFの収縮方向が外側へ向くため,外側方向への牽引力が強まり,この牽引力を相殺し膝蓋骨のアライメントを保持するためにVMOの筋収縮が強くなったと考える.【理学療法学研究としての意義】VMOの萎縮が発生すると,VLとの筋力比が不均等となるため,膝蓋骨のアライメント保持が行えず,膝蓋骨は外側偏位を起こす.この外側偏位が,膝蓋大腿関節痛を引き起こす原因とされ,VMOの選択的強化の方法について多くの報告がされている。しかし、効果的な方法が明確にはなっていない.変形性膝関節症の進行した患者では下腿の内反変形によりアライメントが変化しているため,VMOの走行が異なることが考えられる.今後は,膝関節疾患の患者を対象に,PSによるトレーニングの効果を検証する必要がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102164-48102164, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576375552
  • NII論文ID
    130004586204
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102164.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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