地域在住高齢者における転倒恐怖感と生活環境

DOI
  • 古賀 隆一郎
    独立行政法人 労働者健康福祉機構 山口労災病院 中央リハビリテーション部
  • 砥上 恵幸
    独立行政法人 労働者健康福祉機構 山口労災病院 中央リハビリテーション部
  • 中村 勝
    独立行政法人 労働者健康福祉機構 山口労災病院 中央リハビリテーション部
  • 富永 俊克
    独立行政法人 労働者健康福祉機構 山口労災病院 リハビリテーション科
  • 松島 年宏
    独立行政法人 労働者健康福祉機構 山口労災病院 リハビリテーション科
  • 城戸 研二
    独立行政法人 労働者健康福祉機構 山口労災病院 整形外科

抄録

【はじめに、目的】近年、転倒に関する心理的影響として転倒恐怖感が注目されている。これまでも、転倒恐怖感に関する研究は様々報告されており、我々も「高年齢」「屋外移動に歩行補助具を用いている」「痛みがある」の3因子(以下、3因子)が転倒恐怖感に影響を与える要因であることを報告した。その結果、加齢的な身体機能低下が転倒恐怖感をより助長しているのではないかという帰結に至ったが、退院後の生活環境下における検討は行っておらず、多面的に調査する必要があると考えた。本研究の目的は、転倒骨折後、自宅復帰された高齢患者の退院後の生活環境に転倒恐怖感が及ぼす影響を見出すことである。【方法】平成21年4月から平成23年7月までに転倒し、大腿骨頚部骨折、橈骨遠位端骨折、脊椎圧迫骨折、上腕骨近位端骨折を受傷後、自宅復帰となった65歳以上の高齢患者103名に対し、郵送によるアンケート調査を実施した。質問内容は、生活環境に関する設問と転倒恐怖感についての2つの大項目を設けた。なお、転倒恐怖感を測定する指標としてModified Falls Efficacy Scale(以下、MFES)を用いた。MFESは、転倒に対する自己効力感から転倒恐怖心の程度を測定するための尺度である。また、我々の先行研究で、転倒恐怖感に影響を与える要因として挙げられた3因子全てに当てはまる群を該当群、当てはまらない群を非該当群の2群に分類した。2群間において、年齢、性別、疾患別、介護保険の有無、退院時Barthel Index、生活環境に関する設問群、MFES合計点、MFESの各項目を検討項目として比較した。統計解析には、Stat FlaxV4.1を使用し、統計学的分析は、χ2乗検定、Mann-WhitneyのU検定を用い、統計的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】書面を用いて調査の協力について説明し、同意を得られた対象者のみに実施した。本研究は、当院の倫理委員会の承認を得て行った。【結果】有効回答数は95名。該当群は28名(女性:26名、男性:2名、年齢:82.6±4.4歳)、非該当群は67名(女性:48名、男性:19名、年齢:75.7±7.2歳)であった。疾患別(P=0.19)、玄関や敷居に段差がある(段差あり:該当群86%、非該当群93%)(P=0.52)、生活様式(P=0.68)、就寝時様式(P=0.42)において有意な差は認められなかった。有意な差がみられた項目は、性別、手すりが設置してある(手すりあり:該当群79%、非該当群 55%)(P>0.05)、年齢、介護保険の有無(取得している:該当群 82%、非該当群 27%)、退院時Barthel Index(該当群:89.8±11.5点、非該当群:96.9±6.2点)、MFES合計点(該当群:64.5±38.3点、非該当群:107.4±37.9点)、MFESの各項目全て、住宅改修の有無(施行している:該当群 61%、非該当群 25%)(P>0.01)。さらに、住宅改修を行った時期として該当群の76%が退院前に行っており、改修内容としては、手すり設置や段差改修、生活様式を和式から洋式に変更したなどだった。 【考察】該当群と非該当群の2群間において、MFES合計点、MFESの各項目全てにおいて有意な差がみられたことは、3因子が、転倒恐怖感に対して影響を与える要因となっていることがより裏付けられた。また、該当群と非該当群の退院時Barthel Indexでは、有意差がみられたものの得点としてはどちらも自立レベルであった。しかし、該当群では非該当群よりも高年齢であり、約8割の方が介護保険を取得していた。その結果、介護保険などの社会資源を利用することで退院前に住宅改修をスムーズに施行できていたのではないかと考える。Tinettiは、転倒恐怖感に対する予防的アプローチとして、身体的要素だけでなく環境要素を含めた多面的アプローチを推奨している。転倒により骨折した高齢者がそれまで住み慣れた生活環境であっても、退院後に受傷時動作やその場面に遭遇した際には、恐怖感を抱く可能性もあり注意が必要である。以上のことからも、実際の臨床場面において3因子に該当する患者に対しては、事前に生活環境などの情報収集を十分に行い、身体状況に応じた生活環境設定や介護保険等の社会資源の利用を本人や家族に説明していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】実際の臨床場面において3因子に該当する患者に対しては、事前に生活環境などの情報収集を十分に行い、身体状況に応じた生活環境設定や介護保険等の社会資源の利用を本人や家族に説明していく必要がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101259-48101259, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576377856
  • NII論文ID
    130004585540
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101259.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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