股関節開排運動時における股関節周囲筋の筋活動

説明

【はじめに、目的】股関節開排運動時の等尺性最大筋力の評価は再現性に優れており,Timed up and go test(以下,TUG)や開眼片足立ち保持時間との間に有意な相関が認められている。膝関節伸展筋力評価は下肢筋力の代表値として認識されているが,膝関節疾患を有する場合,痛みや痛みを起こす恐怖感のために本来有する筋力が発揮できないことが報告されている。そのため,股関節開排運動の筋力評価はより下肢筋力を表す指標として期待されている。また股関節開排運動は,股関節外転筋群や股関節伸展筋群の筋力トレーニングとして,臨床における運動療法の一つとして実施されている。股関節開排運動を下肢の評価や筋力増強運動に利用するにあたっては,科学的にその活動について理解しておく必要がある。しかし股関節開排運動の筋電図学的解析を行った研究は少なく,その筋活動については明らかになっていない。そこで本研究では,股関節開排運動時の随意収縮力と,股関節周囲筋の筋活動を表面筋電図にて分析し,股関節開排運動における筋活動のメカニズムを検討した。【方法】対象は,下肢に病的機能障害が認められない健常成人男性15名(平均年齢34.2±13.5歳)とした。被検筋は股関節伸展,外転,外旋いずれかの作用があり股関節開排運動に関与が推測される大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋,縫工筋とした。各被検筋について,MMT肢位と股関節開排運動時の最大随意収縮(maximum voluntary contraction;MVC),および10%・20%・30%・40%・50%・60%・70%・80%MVCを3 秒間測定し,このうち1 秒間の積分値(integrated electromyography;IEMG)を求めた。股関節開排運動の肢位は,背臥位で股関節約45°屈曲位,膝関節約90°屈曲位,足底を治療ベッドに着けた肢位とした。得られたIEMGについては,各被検筋のMMT肢位でのIEMGを基準として正規化を行い%IEMGとした。統計処理には,統計処理ソフトウェア(確認)を使用した。Bartlett検定にて等分散を確認した後に,反復測定分散分析を行った。統計学的に有意な差を認めた場合には,post hoc testとしてTukey-Kramer法を行った。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての対象者には,事前に本研究内容,参加の自由などの倫理的配慮について口頭にて説明した。その上で研究への協力を求め,参加の同意を得た。【結果】80%MVCでの%IEMGは,大腿筋膜張筋:62.4 ± 32.4%,大殿筋:66.4 ± 33.1%,中殿筋:45.0 ± 25.9%,縫工筋:90.2 ± 28.3%であった。大腿筋膜張筋は,10%MVCと比較して40%MVCまでの%IEMGは有意な上昇は認められなかったが,50%MVC以上の%IEMGで有意に高値を示した。同様に,大殿筋は10%MVCと比較して60%MVC以上で,中殿筋も60%MVC以上,縫工筋が50%MVC以上で有意な%IEMGの上昇が認められた。【考察】股関節開排運動について,筋活動の指標とされる%IEMGを求めて,解析を行った。大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋,縫工筋において,10%MVCの%IEMGは20 〜40%IEMGと比較して有意差が認められなかったが,50 〜60%MVC以上で有意な増加が認められた。股関節開排運動時の随意収縮力が50 〜60%MVC以上まで増加すると,被検4 筋の筋活動が増加した。股関節開排運動時の筋力はこれらの筋の筋力と考えられる。股関節開排運動時の筋力がTUGや開眼片足立ち保持時間との間に有意な相関が認められたのは大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋,縫工筋が股関節の安定性に寄与した結果であると考えられる。股関節開排運動は,大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋,縫工筋の筋活動による運動であり,臨床現場において股関節外転筋群や股関節伸展筋群の筋力増強効果が期待できると考えられる。今回,50 〜60%MVC以上において,%IEMGの有意な増加が認められた。一般に最大筋力の60%以上の筋力増強運動で筋力増強効果があるとされており,本研究の結果からも,筋力増強運動は最大筋力の60%以上で行われることが推奨されると考える。【理学療法学研究としての意義】股関節開排運動は筋力評価や筋力増強運動として有用である可能性が示された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102111-48102111, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576460800
  • NII論文ID
    130004586168
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102111.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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