外傷性肩前方不安定症が自動的位置覚へ及ぼす影響

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抄録

【はじめに,目的】関節位置覚は,ボディーイメージを司る機能であり,位置覚形成に寄与するものは,遅順応型受容器であるルフィニー型終末やゴルジ型終末とされている。関節位置覚についての報告は散見される。肩関節では腱板断裂や健常者での報告はみられるが,外傷性肩前方不安定症(以下,肩前方不安定症)における報告は少ない。さらに他動的手法を用いた位置覚検査法が多く,自動的検査法で肩前方不安定症に対する位置覚の報告は渉猟しえた限り見当たらなかった。そこで肩前方不安定症と健側肩での自動的位置覚を調査した。【方法】対象は,2015年4月~10月の期間に当院で肩前方不安定症と診断された17名(平均年齢20.29±10.45歳,男性12名,女性5名,患側21肩,健側13肩)である。関節位置覚の測定は,KastenらによるActive Angle Reproduction testを改変した。まず,対象は背もたれのない椅子に端坐位となり目隠しをした。測定側上肢を体側に下垂させ,検者が他動的に設定位置へ動かし5秒間静止させ,その角度を記憶させた。開始位置に上肢を戻し,自動的に再現させた。設定角度は肩関節屈曲30度,60度,下垂位内旋45度,下垂位外旋30度の4方向で無作為化した。計測は2人で行い,ゴニオメーターを用いて測定した。再現角度3回の平均値と設定角度との差の絶対値を記録し患側と健側を比較した。統計学的解析にはR2.8.1を使用し,対応のないt検定を行い有意水準は5%とした。【結果】設定角度との差は,健側屈曲30度:3.75±2.9度(-2.3~8.3),患側屈曲30度:8.0±5.9度(-4.3~20.7),健側屈曲60度:3.5±2.2度(-3.3~7.7),患側屈曲60度:6.4±5.4度(-4.3~21.7),健側内旋45度:2.4±2.7度(-1.7~8.7),患側内旋45度:4.8±3.6度(-9.7~14),健側外旋30度:4.2±2.9度(-9.7~5.7),患側外旋30度:2.8±2.1度(-9.3~5.7)であった。屈曲30度(P<0.01)と内旋45度(P<0.05)で有意差がみられた。【結論】本研究では,肩前方不安定症において肩関節屈曲30度・下垂位内旋45度にて有意に自動的位置覚の低下を認めた。屈曲30度・内旋45度では,関節唇の損傷や前方関節包・肩甲下筋の弛緩により,安定化メカニズムの破綻が生じ,フィードバックに影響を及ぼしたと考えた。一方,外旋30度では健側の絶対値がより大きい傾向にあった。これは外旋による脱臼不安感が関与していると考えた。一定の方向で自動的位置覚が低下したことから,関節包・関節唇や,肩関節周囲筋が関与していることが示唆された。今後,経過を追い自動的位置覚が術後どの程度で回復するかを検討し,最終的にオーバーヘッドスポーツにおける復帰または投球などの開始時期と自動的位置覚の関係性について調査していきたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576577920
  • NII論文ID
    130005417232
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0250
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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