がん患者の理学療法開始前の血清アルブミン値と運動強度の推移の関係

  • 吉倉 孝則
    浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部 星城大学大学院健康支援学研究科
  • 美津島 隆
    浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 大川 裕行
    星城大学大学院健康支援学研究科

Description

【目的】 がん生存者は今後益々増加することが予測され,理学療法の対象としても増加することが予測される.がん患者の理学療法において,全身状態の悪化により目標設定を下げざるを得ない患者が多くみられ,運動を中心とした理学療法の目標設定が難しい場合がある.またがん患者では低栄養である事が多いことが知られている.栄養指標として血清アルブミン値(Alb値)はよく用いられ,理学療法実施患者のAlb値とFIM得点の間には正の相関を認めたという報告もある.このように栄養と理学慮法の関係を調査することは,目標設定や運動負荷量を設定する上で有用であると考える. 本研究の目的はがん患者の理学療法開始前のAlb値と運動強度の推移との関係を調査することである.【方法】 対象は2010年4月から24ヵ月に当院緩和ケアチームに新規依頼された患者202名中,チーム依頼後に理学療法を開始した44名(平均年齢61歳,男性25名,女性19名)である.方法は診療録やデータベースから後方視的に年齢,身長,体重,Alb値,理学療法介入内容を抽出した理学療法開始前のAlb値が3.5g/dL以上を正常,2.8~3.5g/dLを軽度栄養障害,2.1~2.8g/dLを中等度栄養障害,2.1未満を高度栄養障害と分類した.理学療法内容から運動強度を4段階(強度1:関節可動域訓練などベッド上での介入,強度2:座位,移乗などの介入,強度3:歩行練習,強度4:エルゴメータ,階段練習など負荷運動)に分けた.その日の実施された理学療法内容のうち最も大きい運動強度をその日の運動強度として採用した.運動強度が理学療法開始後,退院時に維持または改善した場合を維持改善群,退院時に運動強度が下がっていくまたは理学療法中止となった場合を増悪群と定義した.理学療法開始前のAlb値と理学慮法介入後からの運動強度の推移との関係を調査した. 統計学的処理として,運動強度の維持改善群と増悪群の差について対応のないt検定を用い,維持改善群と増悪群のAlb値の境界値について判別分析を用いて検討した.【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,当院の倫理委員会の承認を得た.[承認番号24-49]【結果】 理学療法開始前のAlb値は正常12名(27.3%),軽度栄養障害14名(31.8%),中等度栄養障害12名(27.3%),高度栄養障害6名(13.6%)であった.Alb値正常症例では維持改善群9名(75%),増悪群3名(25%),軽度栄養障害症例では維持改善群8名(57.1%),増悪群6名(42.9%),中等度栄養障害症例では維持改善群3名(25%),増悪群9名(75%),高度栄養障害症例では維持改善群2名(33.3%),増悪群4名(66.7%)であった.維持改善群と増悪群の比較では,年齢,身長,体重に有意差はなかったが,平均Alb値は維持改善群で3.3 g/dL,増悪群で2.7 g/dLで有意差を認めた.判別分析の結果,判別関数はZ=1.27×Alb値-3.805となり,境界値は3.0 g/dLであり,的中率は72.7%であった.【考察】 患者の栄養状態が悪いと疾患や障害の予後が不良であることは脳卒中や慢性心不全などで報告されている.がん患者でも低栄養はQOL低下,がん治療効果の減少,生存期間の短縮をもたらすと報告されている.がん患者は器質的な機能障害や治療の副作用による嘔吐や味覚障害など様々な要因により食欲不振となるだけでなく,炎症サイトカインによるタンパク異化亢進なども影響し,Alb値が低下することが考えられる.このような患者は悪液質状態となっていることが考えられ,理学療法介入しても運動強度が上がらない可能性が高い.終末期がん患者の理学療法の役割は,ADLを維持改善することにより,できる限り可能な最高のQOLを実現するべく関わることといわれている.Alb値3.0 g/dL以下のがん患者は72%が増悪しており,このような患者ではADL維持向上や緩和的な理学療法を実施していく必要があると考えられる.今後の課題は,的中率をあげるために他の栄養評価指標との関連や,理学療法介入後の栄養状態の変化と運動強度の関係,より詳細な運動強度や身体機能との関連を調査していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 がん患者に対する理学療法介入は,身体機能やADL向上を目標とした理学療法を実施するのか,身体機能維持やADL維持向上,緩和的な理学療法を実施するのかを判断が難しい場合がある.本研究より,Alb値を理学療法開始前に評価することで,運動強度を上げられるのか予測が可能となり,目標設定や運動負荷設定などに有用な情報となる.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576758144
  • NII Article ID
    130004585609
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101345.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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