THA後の股関節周囲筋の筋力回復と日常生活動作について
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説明
【はじめに、目的】 変形性股関節症の末期の治療の一つに人工股関節置換術(以下、THA)がある。THA術後は手術による影響や筋委縮によって股関節周囲の筋力は低下すると言われている。そのため、術後のリハビリテーションでは股関節周囲の筋力増強が必要となる。中でも股関節外転に関与する中殿筋の筋力は術後の歩行や動作改善に重要とされているが、その他の股関節周囲筋に関しての報告は少ない。しかし、歩行や日常生活動作には外転筋以外の股関節周囲筋も重要であると考えられる。そこで本研究では、股関節周囲筋である中殿筋・大殿筋・大腿四頭筋・ハムストリングのTHA術前後の筋力の比較を行い、筋の回復率を評価すること、また筋の回復率と日常生活動作にどのような関連があるのかを検討することを目的とした。【方法】 対象は変形性股関節症によりTHA術が適応となった女性6名とした。平均年齢は65.2±5.2歳で、平均体重は59.7±7.9kg、日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA hip score)は36.2±12.6点であった。除外基準は両側THA施行者や再置換施行者、体幹および下肢の手術歴を有する者、中枢神経疾患またはその他神経筋疾患を有する者とした。測定は術前と術後1ヶ月とし、筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(以下:HHD、日本メディックス社製 Power Track 2 MMT COMMANDER)を使用し、同一検者にて行った。測定肢位は背臥位で中殿筋、腹臥位で大殿筋とハムストリング、座位で大腿四頭筋を、左右3回ずつそれぞれ測定した。得られたデータを元に、術後筋力の術前に対する割合を術前比(%)(THA後の筋力÷THA前の筋力×100)として算出した。日常生活機能の評価はWestern Ontario and McMaster University Osteoarthritis Index(以下、WOMAC)の生活困難度の17項目について自己記入式の質問用紙で行った。統計学的解析は統計ソフトウェアSPSS Ver.19.0 for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い、筋の回復率には対応のあるt検定とTukey 法、生活困難度の項目に対してはウィルコクソン符号順位和検定をそれぞれ行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当大学院保健学研究科倫理審査委員会の承認を得て行った。対象は自らの同意に基づき本研究に参加し、測定前に研究の意義・目的について十分に説明した上で、口頭および文面による同意を得た後に実施した。【結果】 筋力の術前比(術側、非術側)は中殿筋(112.9±17.0%、101.9±15.9%)、大殿筋(162.3±53.8%、147.0±30.2%)、大腿四頭筋(132.9±43.1%、111.9±62.8%)、ハムストリング(108.4±53.7、104.8±29.7%)で、両側間・筋間で有意な差は認められなかった。生活困難度に関しては、階段を降りる・平面の歩行の項目で有意に改善(p<0.05)し、靴下を脱ぐ・履く・車の乗り降りの項目で有意に悪化(p<0.05)した。その他の項目では有意差は認められなかった。【考察】 THA後の筋力増強運動の内容の代表例としては股関節外転筋運動やSLR、腰上げ運動が挙げられる。今回の結果では有意差はでなかったものの、大殿筋や術側の大腿四頭筋の回復率が大きくなっているのはこれらの運動の成果であると言える。術後に筋力増強が必要と強く言われ、現場でも増強運動を指導されることの多い中殿筋の回復率が前述の二つの筋より低いのは、手術による侵襲が一番強い筋であるからであると考えられる。一方、手術による影響があまり無いにも関わらずハムストリングの回復率が低いことは、THA術後では他の三筋に比べてあまり積極的に行われていないことを示唆する。ハムストリングは股関節伸展に作用し、立ち上がり動作や歩行の安定にも重要となるために筋力増強を行うことは術後の生活動作を円滑に行うために必要と考えられる。生活困難度に関しては、階段を降りる・平面歩行の項目で有意な改善がみられた。これは手術による可動域・疼痛の改善に加えて大腿四頭筋などの股関節周囲の筋力が向上したために、下肢の安定性を得ることが出来たためと示唆される。一方で靴下を脱ぐ・履く・車の乗り降りの項目の困難度は上がっていた。これは動作を行う際に、下肢を持ち上げたりする筋力はあり、動作を行うことは可能であるがTAH術後の脱臼による不安から、術前よりも困難となっていると考えられる。本研究から、動作を行える筋力は獲得出来ていても心的要因から動作が困難になっているために、筋力増強運動と共に動作指導の必要性があると示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究の意義は、THA術前後での股関節周囲筋の回復率を調べ、股関節周囲筋の中でもハムストリングの回復率が低く、TAH術後の筋力増強の必要性を示唆したことである。さらにTAH術後の日常生活では筋力が回復しているにも関わらず、心的要因から困難になる動作があり、それらに対する指導の必要性を示唆したことである。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101386-48101386, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205576769408
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- NII論文ID
- 130004585640
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可