横隔神経運動ニューロンは糖尿病性ニューロパチーにより障害される

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抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>日常生活において,糖尿病患者が呼吸苦や循環器症状を訴えることはほとんど無い。しかし,糖尿病患者における努力性肺活量の減少や,呼吸筋の筋持久力低下などが報告されていることから,糖尿病罹患者に何らかの呼吸障害が生じている可能性は高い。我々は最近,この推測を元に行なった電気生理学的解析にて,糖尿病モデルラットの横隔膜に除神経とその後の再神経支配筋に特徴的な巨大運動単位電位が観察されたことを報告した。そこで,この除神経とその後の再神経支配が,DNによる運動ニューロンの脱落に起因しているのかを明らかにするため,今回,1型糖尿病モデルラットを対象に,横隔神経核の逆行標識を行なった。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>実験には,13週齢の雄性WistarラットにStreptzotocinを腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させたSTZラットを糖尿病群,同週齢のWistarラットを対照群として用いた。両群とも22週間の飼育期間をおいて実験に供した。ハロタン吸入麻酔下で対象の頸部を切開し,腕神経叢から分枝した横隔神経を同定し,切断する。断端をDextran texas-red溶液に1時間暴露し,術創を閉じて動物を回復させる。2週間の生存期間をおいて,麻酔下にて潅流固定を行い,第2~6頸髄を摘出した。取り出した脊髄を80μmの厚さに薄切して,蛍光顕微鏡下で標本を観察及び撮影し,imageJを用いて運動ニューロンの細胞数と断面積を計測した。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>逆行標識された横隔神経核は,切断側と同側に分布し,脊髄の長軸方向にカラム(柱)を形成している様子が観察された。また,糖尿病群では,逆行標識された細胞の密度が対照群に比べて明らかに低く,細胞数を計測した結果,糖尿病群では124.00±33.79個,対照群では221.00±41.73個と,糖尿病群において有意に細胞数が少なかった。細胞の断面積については,両群に間に有意差を認めなかった。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>以上の結果は,糖尿病罹患により横隔神経核が障害を受け,脱落している可能性を示唆している。先に報告した電気生理学的な解析結果と照らすと,糖尿病の罹患により横隔神経核の運動ニューロンが脱落し,残存している運動ニューロンが除神経された横隔膜の筋線維を再神経支配して,機能代償をしている可能性が高いと考えられる。一般的に再神経支配筋は疲労耐性が低いなどの特徴が認められるため,横隔膜の除神経・再神経支配は糖尿病患者の換気能力を低下させ,運動耐容能の低下に関与している可能性が高いと推察される。しかし,これらの呼吸障害は筋の代謝異常に起因すると考えられており,神経障害と呼吸・循環機能との関連性については十分な研究がなされていない。今後,更なる解析を加え,糖尿病性の呼吸器障害と運動耐容能との関係を明らかにしていきたい。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205577270400
  • NII論文ID
    130005609512
  • DOI
    10.14900/cjpt.2016.1477
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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