維持期脳卒中片麻痺患者における咳嗽力と関連因子の検討

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抄録

【はじめに,目的】高齢の脳卒中片麻痺患者では加齢的変化に運動麻痺,嚥下障害が伴うことで誤嚥性肺炎を引き起こす可能性が高くなる。誤嚥性肺炎の予防には摂食嚥下機能に加えて気道防御機能の一つである咳嗽力が重要となる。咳嗽力には肺活量や呼吸筋力などの呼吸機能が必要となるが,高齢の脳卒中片麻痺患者における咳嗽力と呼吸機能の関連は明らかでない。そこで,本研究では高齢の脳卒中片麻痺患者における咳嗽力の実態と呼吸機能,運動機能,ADL能力との関連について明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は歩行可能で脳卒中発症後6ヶ月以上経過した意思疎通が可能な脳卒中片麻痺患者21名(84±7歳,男性11名)とし,胸郭の手術の既往,呼吸器疾患が有る場合は除外した。上肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS),Barthel Index(BI),咳嗽力,呼吸機能(肺機能,呼吸筋力,胸腹部可動性)を測定した。咳嗽力はピークフローメータを用いて咳嗽時最大呼気流速(CPF)を測定し,最大吸気からの随意的な咳嗽努力を行わせた。肺機能はスパイロメータを用いて,努力性肺活量(FVC),%FVC,一秒量(FEV1),%FEV1,一秒率(FEV1/FVC)を測定した。呼吸筋力は口腔内圧計を用いて最大吸気口腔内圧(MIP)と最大呼気口腔内圧(MEP)を測定し,最大呼気(吸気)から最大吸気(呼気)努力を行わせた。呼吸機能の測定は座位にて各3回行い,最大値を採用した。CPFが240L/min未満を咳嗽力低下とした。胸腹部可動性は呼吸運動評価スケールを用いて,上部胸郭,下部胸郭,腹部における深呼吸運動を測定し,呼吸運動測定器に表示された9段階(0~8)のスケールで表した。測定はベッド上背臥位にて各2回行い,最大値を採用した。また,3部位を合計したスケール値(合計スケール値)を求めた。上下部胸郭および腹部のスケール値は4未満,合計スケール値は12未満を可動性低下とした。CPFと呼吸機能,上肢BRS,BIの関連をみるためにSpearmanの順位相関を用いた。有意水準は5%とした。【結果】測定結果(平均または中央値)は上肢BRS 5,BI 70点,CPF 251L/min,FVC 1.9L,%FVC 95%,FEV1 1.5L,%FEV1 108%,FEV1/FVC 84%,MIP 29cmH2O,MEP 39cmH2O,上部胸郭可動性3,下部胸郭可動性3,腹部可動性4,合計スケール10であり,咳嗽力低下は10名(48%),%FVCが80%未満は9名(43%),FEV1/FVCが70%未満は4名(19%),可動性低下は,上部胸郭12名,下部胸郭19名,腹部8名,合計スケール17名(81%)だった。CPFとFVC,FEV1,MEPで中等度の有意な正の相関を認めた(各r=0.56,0.57,0.55)が,上肢BRSとBIには相関を認めなかった(各r=-0.11,0.12)。【結論】高齢の維持期脳卒中片麻痺患者の48%に咳嗽力低下が認められ,CPFにFVC,FEV1,MEPが関連することがわかった。歩行可能な維持期の高齢脳卒中片麻痺患者における咳嗽力には,上肢運動機能やADL能力より呼吸機能が関連することが示唆された。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205577594240
  • NII論文ID
    130005417794
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0774
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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