姿勢変化が上下胸郭体積変化に及ぼす影響

DOI
  • 正保 哲
    文京学院大学 保健医療技術学部 理学療法学科
  • 柿崎 藤泰
    文京学院大学 保健医療技術学部 理学療法学科

抄録

【はじめに,目的】呼吸に関与する筋は,頸部,体幹に存在するため,その多くは姿勢制御をも担っている。姿勢アライメントが変化すると,胸郭運動に影響を与え,呼吸機能,特に吸気能力を反映する肺活量や予備吸気量に変化をもたらすとされる。姿勢変化と胸郭運動の関係を明らかにすることは,具体的にどのように姿勢を改善すべきかについての治療介入に示唆を与えることにつながる。姿勢変化による呼吸機能・胸郭運動の具体的なメカニズムについて明らかにすることは臨床的な意義が大きい。そこで今回,2つの異なる座位で3次元動作解析装置を用いて胸郭拡張差と胸郭体積の測定を行い,その変化について考察した。【方法】対象は,若年男性12名とした。測定姿勢は,中間座位(骨盤傾斜角0度)と後傾座位(骨盤傾斜角20度)とした。胸郭運動による体積変化の測定には,3次元動作解析装置Vicon MX(Vicon社)を使用した。胸郭運動による体積変化の測定は,体表に貼付した赤外線反射マーカの変化量から算出した。マーカ貼付位置は,胸骨切痕レベル,第3肋骨レベル,胸骨剣状突起レベル,第8肋骨レベル,第10肋骨レベル,臍レベルとした。各レベルの正中線上に貼付したマーカから近い順に内側,中央,外側に左右に3個ずつ計6個,腹・背部の表裏をなす位置に計84個のマーカを貼付した。マーカ間の距離は,両肩峰端の距離の15%と設定した。胸郭の体積の算出は,対応する腹・背側それぞれ4個,合わせて8個のマーカから六面体を形成し,胸郭全体では30個の六面体に分割した。1つの六面体をさらに,3つの三角錐に分け,各マーカ位置データから三角錐を構成する位置ベクトルを算出し,その位置ベクトルから三角錐の体積,六面体の体積を算出し,胸郭全体の体積変化を算出した。【結果】中間座位での体幹傾斜角度と上下胸郭体積変化には,関連性があり(p<0.05),それぞれ正の相関関係が認められた(第3肋骨:r=0.64,第10肋骨:r=0.70)。また,第3肋骨レベルでの体幹傾斜角度は,中間座位に対して後傾座位で有意な増加を示した(p=0.01)。中間座位での胸郭拡張差と上下胸郭体積変化には関連性があり,それぞれ正の相関関係が認められた(第3肋骨:r=0.84,第10肋骨:r=0.76)。また,上下部胸郭の体積変化は,中間座位で上部胸郭に有意に大きな変化を示し(p=0.03),後傾座位では下部胸郭に有意な変化を示した(p=0.01)。さらに,中間座位に対して後傾座位では上部胸郭体積変化で有意な低下を示した(p=0.01)。【結論】後傾座位では上部胸郭の体積変化が大きく減少し,この体積減少が肺活量および最大吸気量低下の要因であると示唆された。また,頸部の運動戦略と脊柱伸展性が,上部胸郭可動性に影響していた可能性が示唆された。上部胸郭の可動性を確保するために骨盤後傾位の改善を図ることが,呼吸しやすい環境を提供することに繋がると思われる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205577605632
  • NII論文ID
    130005417801
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0782
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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