頚長筋の頭頚部安定作用

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抄録

【目的】頚長筋(以下LC)は,頚椎椎体前外側面を走行し,一般に頭頚部を安定させると考えられている。頚長筋については,Deborahらの頭頚部屈曲テストの報告や,Javanshirらの慢性頚部痛における活動障害についての報告があるが,頭頚部安定作用についての報告はない。本研究の目的は,頭部に外力を加えたときのLC筋厚を明確にすることで,LCの安定作用を胸鎖乳突筋(以下SCM)の作用とともに検討することである。【方法】対象は,頚部に既往のない健常成人男性20名(平均年齢20.3±0.9歳)とした。測定肢位は,股・膝関節が90°屈曲位となるよう座面の高さを調節した背もたれのない椅子に,自然に着座させた姿勢とした。外力は,両前頭結節中央から矢状後方,左右の前頭結節から20°内後方の3方向へ水平に加え,大きさは負荷なしと1kgw,2kgw,3kgwとし,負荷は徒手筋力計(アニマ社製ミュータスF-1)を用いて加えた。外力に負けないよう頭頚部を保持させたときの右側筋厚を超音波画像診断装置(日立メディコ社製MyLab25)を用いて測定した。プローブ(10MHz,リニア型)は,甲状軟骨より2cm外下方で頚椎長軸に平行にあて,正中矢状面に対し20°内側に傾け撮像した。得られた画像から,画像解析ソフトImageJを用いてLC筋厚とSCM筋厚を測定した。解析には,外力方向と大きさを要因とした反復測定二元配置分散分析とScheffeの多重比較を用いた。【結果】LC筋厚は,負荷なしでは8.0±1.9mmであった。また,1kgwから3kgwの順に矢状後方では9.0±2.0mm,10.0±2.2mm,11.0±2.2mm,右内後方では9.3±2.1mm,10.4±2.1mm,11.3±2.2mm,左内後方では9.0±1.6mm,10.0±1.8mm,11.1±1.9mmであった。分散分析の結果,交互作用はみられず外力の大きさにのみ有意差を認め(p<0.01),多重比較の結果,負荷なしにくらべ2kgw,3kgwは有意に増加し(p<0.01),1kgwにくらべ3kgwは有意に増加していた(p<0.01)。SCM筋厚は,負荷なしでは5.3±1.7mmであった。また,順に矢状後方では7.0±2.3mm,8.2±242mm,9.6±2.6mm,右内後方では6.6±2.4mm,7.7±2.7mm,9.4±2.9mm,左内後方では6.9±2.3mm,8.0±2.3mm,9.6±2.6mmであった。LC筋厚と同様に外力の大きさにのみ有意差を認め(p<0.01),負荷なしにくらべ1kgw,2kgw,3kgwは有意に増加し(p<0.01),1kgwにくらべ2kgw,3kgwは有意に増加し(p<0.01),2kgwにくらべ3kgwは有意に増加していた(p<0.01)。【結論】LC筋厚が外力の増加にともなって段階的に厚くなることから,LCには頭頚部の安定作用があることが明確となった。しかし,SCMも増加にともなって段階的に筋厚を厚くすることから,LCとSCMには3kgw程度の外力では一般に考えられている安定筋と推進筋の関係はなく,共同筋として頭頚部の安定に作用することが示唆された。また,外力方向に有意差はないため,LCとSCMはともに両側を働かせて頭頚部を安定させる可能性がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205577823616
  • NII論文ID
    130005417570
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0538
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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