視覚情報が振り向き動作に与える影響

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抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>高齢者の転倒は,夜,振り向き動作などの回旋運動中に生じやすいことが知られている。これらの転倒の原因は身体能力の低下に加えて,暗所での視覚情報の減少が影響を与えているものと考えられている。高齢になるにつれ,視覚情報に依存して姿勢制御をするとの報告があることから,視覚情報は姿勢制御において重要な要素であると考える。そこで,本研究は視覚情報が振り向き動作に与える影響を調べ,高齢者の夜間転倒のメカニズムに関連する基礎的知見を得ることを目的に行った。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は神経・整形外科疾患,視覚異常のない健常成人8名(男性4名,女性4名,平均年齢24.5±1.4歳)とした。方法は,被験者は足を腰幅に開き,足角10度の立位姿勢から,足部を固定したまま後方に振り向くように指示し左回旋させた。次いで左回旋位から右回旋し,正面に戻るまでの動作を行った。この際,被験者には開眼(条件A),アイマスクによる視覚遮断(条件B),左右反転プリズム眼鏡による体性感覚と視覚の乖離(条件C)の3条件を無作為に与え,各条件下での動作を3回行った。また,動作中の被験者の左右の大腿直筋,半腱様筋から表面筋電図を記録し,筋電計と同期させたビデオカメラにて頭部の水平面の動作を記録した。終了後,ビデオ映像から回旋運動の開始・終了時間を同定し,平均角速度の算出と筋電図の平均振幅を算出した。筋電図の平均振幅は絶対値積分処理(時定数0.3秒)した波形から算出し,最大随意運動にて記録される各筋の筋電図振幅に占める割合(%MVC)で表した。統計処理はprism 5を使用し,各群間での有意差は一元配置分散分析を行った後に多重比較検定(Bonferroni法)を行い,統計学的有意水準は危険率5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>各条件における筋電図の%MVC,回旋運動の平均角速度は各群間に統計学的有意差が認められなかった。一方,左半腱様筋の筋電図の平均振幅を平均角速度で除した値(回旋運動に必要な筋活動量)は条件Aに比べて条件Cにて優位に増加したが(P<0.05),他の筋には差が認められなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>今回の実験結果から,視覚情報の変化は回旋運動の筋活動量や角速度にほとんど影響を及ぼさないが,条件Cにおける回旋運動に必要な左半腱様筋活動量は有意に増加することがわかった。しかし,結果に示すように左半腱様筋の平均振幅,角速度ともに不変であった。この現象は筋電図を記録していなかった筋の出力の変化,すなわち運動の実行パターンが変化した結果であると考えられる。本研究は健常者を対象とし,視覚と体性感覚の乖離という特殊な実験条件下における動作を解析対象としているため,高齢者の夜間転倒について直接的な関連づけはできない。しかし,視覚情報の種類によって動作の実行パターンが変化するという知見は,夜間における転倒増加の背景には視覚情報の変化による運動実行パターンの変化が関連している可能性があると考える。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205577994496
  • NII論文ID
    130005608652
  • DOI
    10.14900/cjpt.2016.0568
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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