藤島式嚥下グレードが正常であった急性期脳卒中後の肺炎合併因子の検討
説明
【はじめに,目的】急性期脳卒中患者に最も多い合併症の1つに肺炎がある。肺炎合併により機能予後の悪化や在院日数の長期化などが起こると報告がなされている。脳卒中後の肺炎は,嚥下障害が大きな原因であるとの報告が多い。しかし藤島式嚥下グレード(以下嚥下Gr)が正常にもかかわらず,肺炎を合併する症例も臨床場面で経験する。肺炎発症予防の観点から,その原因を調査し対策を練ることは急性期リハビリテーション(以下リハ)の立場からも必要であると思われる。今回,当院の急性期脳卒中患者のうち,嚥下Grが正常であったが,肺炎合併に至った因子の検討を実施した。【方法】平成25年3月から平成26年3月に,リハ依頼のあった急性期脳卒中患者401名(男性216名,女性185名)を対象とした。年齢は73.6±12.4歳であった。入院後14日以内における肺炎の有無と発症時期を調査し,肺炎と診断されたものの中から嚥下Grが正常であった6名を肺炎群,嚥下Grが正常であり肺炎を合併しなかった251名を非肺炎群とした。両群の入院時の年齢・血液一般及び血液生化学検査・リハ開始時の意識状態(Japan Coma Scale:以下JCS)・入院時Functional independence measure(以下FIM)・入院時Body Mass Index(以下BMI)を後方視的に調査し,Mann-WhitneyのU検定を用い比較した。また肺炎群の入院時MRI画像所見についても調査を行い,両側の大脳基底核病変の有無について調査した。肺炎診断基準は主治医が当院のデータベー上に確定診断と記載した患者のみを選出した。有意水準は5%未満とした。【結果】肺炎群の肺炎発症時期は入院後1.7±1.2日であった。年齢は肺炎群85.7±10.2歳,非肺炎群69.8±13.4歳で有意差(p<0.05)を認めた。入院時FIM(認知項目)点数は肺炎群18.5±11.6点,非肺炎群23±5.0で有意差(p<0.05)を認めた。また両群間で血液一般及び血液化学検査値・JCS・BMIに有意差は認めなかった。肺炎群のMRI画像から大脳基底核病変を認めたのは5名であった。【結論】急性期脳卒中後の肺炎は誤嚥によるものが多く,大脳基底核病変では嚥下反射や咳反射の低下を認め,不顕性誤嚥が起こりやすいとされている。また,超高齢者の肺炎発症には,摂食・嚥下行為に必要とされる認知・行動機能,情動制御機能などの先行期に問題が多いと考えられている。本研究において肺炎群は超高齢であり認知機能が低下していることに加え,基底核病変が存在していた。これが脳卒中後の肺炎発症につながったと考えた。本研究により藤島Grが正常であったとしても,急性期脳卒中患者では超高齢者や認知機能の低下が肺炎合併因子となることが示唆された。今後,入院間もない超高齢者や認知機能低下を認める患者の食事時の摂取方法や嚥下状態,分泌物の状態に注意して観察していくことが必要である。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2015 (0), 1100-, 2016
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205578658304
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- NII論文ID
- 130005418030
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可