シロテテナガザルにおける二足歩行時の体幹・下肢筋活動の基本パターン

  • 後藤 遼佑
    大阪大学大学院人間科学研究科生物人類学研究分野
  • 岡 健司
    大阪大学大学院人間科学研究科生物人類学研究分野 大阪河﨑リハビリテーション大学リハビリテーション学部理学療法学専攻
  • 中野 良彦
    大阪大学大学院人間科学研究科生物人類学研究分野

書誌事項

タイトル別名
  • 二足歩行の制御に関する進化人類学的考察

説明

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>二足歩行の制御の基盤となる仕組みが提唱されており,ヒトの歩行時の筋活動タイミングは5つの基本パターンから作られるとされる(Ivanenko, et al., 2004)。複数の筋がそれぞれの基本パターンと関連し,共同筋として一つの機能的な単位を形成している。5つのパターンは異なるタイミングでピークをむかえ,その位相で各パターンに関連する共同筋が同期的に活動する。5つの基本パターンのピークの位相と共同筋に含まれる筋の組合せを調節するという制御の仕組みが,筋を一つひとつ個別に制御するよりも,制御を単純なものにしている(Cappellini, et al., 2006)。</p><p></p><p>シロテテナガザルはヒトと系統的に近縁な類人猿の一種で,基本的に樹上で生活する。時折,地上に下りて,ヒトとは違う様式で二足歩行を行う。本研究では,二足歩行時の筋活動の基本パターンについて,テナガザルとヒトの共通点と相違点を明らかにする。共通点はヒトが類人猿との共通祖先から引き継いだ保存的な制御の仕組みであると考えられる。相違点はヒトが独自に獲得したパターンであると推測される。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>1.対象:シロテテナガザル1個体(メス,21歳,体重:6 kg)</p><p></p><p>2.データ収集:表面筋電計(BioLog, S&ME社)を用いて,二足歩行時の身体左側の17の体幹・下肢筋の活動を計測した:脊柱起立筋,腹直筋,外腹斜筋,浅殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,坐骨大腿筋,縫工筋,大腿直筋,外側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋,薄筋,腓腹筋内・外側頭,前脛骨筋,長腓骨筋。</p><p></p><p>3.分析:全波整流した筋電の高周波成分をローパスフィルタで除去した(遮断周波数:3 Hz)。各試行の振幅の最大値でデータを標準化した。各筋につき20試行を平均した。バリマックス直交回転を用いた因子分析を17筋の平均波形に適用し,因子を抽出した。因子得点から基本パターンを,因子負荷量から各パターンと関連する筋を推定した。比較対象のヒトのデータはIvanenko, et al.(2004)を参照した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>テナガザルでは4つの基本パターンが得られた。その内,3つのパターンの位相と,共同筋に含まれる筋の組み合わせはヒトと類似した。これらのパターンと下肢筋が関連していた。</p><p></p><p>相違点はテナガザルの残り1つの基本パターンに認められた。ヒトでは立脚相の開始と立脚相後半にそれぞれピークとなる独立した2つのパターンがあるのに対し,テナガザルでは2つのパターンが1つに合わさり,二峰性の波形を示した。ヒトではそれらのパターンと関連する共同筋に体幹筋が含まれるが,テナガザルでは体幹筋との関連が弱かった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>二足歩行時に下肢筋を制御する仕組みは,類人猿にも共通する保存的な特徴である。一方,体幹筋を制御する仕組みはヒトに固有である。本結果は,効率的で実用的なヒトの歩行には体幹筋が適切なタイミングで動員される必要があることを示唆する。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2016 (0), 0387-, 2017

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205578914560
  • NII論文ID
    130005608443
  • DOI
    10.14900/cjpt.2016.0387
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ