地域在住高齢者における転倒および転倒不安の有無による日本語版改訂GES得点の違いと運動機能との関連
説明
【はじめに,目的】Gait Efficacy Scale(GES)は歩行動作を安全に行うことができるか否かに対する自信の程度を把握するための指標である(Rosengren, 1998)。Newelら(2012)はGESを日常の生活環境に適した質問項目となるよう修正を加えた(modified GES:mGES)。牧迫ら(2013)はNewelらの改訂したGESを日本語版に翻訳(日本語版mGES)し,地域在住高齢日本人を対象に高い信頼性および妥当性を確認した。しかし日本語版mGESは,転倒経験の有無による違いや,一次介護予防で測定が推奨されているTimed up and go test(TUG),握力,バランスなどの運動機能との関連については明らかにされていない。本研究の目的は,地域在住高齢者に対し転倒経験,転倒不安の有無による日本語版mGES得点の違いを検討するとともに,介護予防での測定が推奨される運動機能との関連について検討することである。【方法】対象は,自宅にて自立している地域在住高齢者70名(平均年齢74.7±4.4歳,男性22名,女性48名)であった。事前の問診により「体調不良」と答えた者,日本語版Montreal Cognitive Assessmentで20点未満の者は除外した。アンケート項目は,日本語版mGES,転倒経験,転倒不安とした。日本語版mGESは牧迫らの方法に従い自記式にておこなった。転倒経験は過去1年間の転倒の有無を聴取し,1回以上転倒したと答えた者を転倒ありとした。転倒不安は現在の転倒に対する不安の有無を聴取した。運動機能の測定項目は,握力,TUG,重心動揺とした。重心動揺測定は,重心動揺計(アニマ社製)上に閉脚立位をとり,開眼および閉眼の2条件で30秒間測定した。条件別に総軌跡長,外周面積および実効値を算出した。転倒あり群14名と転倒なし群56名の2群に分け,転倒の不安あり群19名と不安なし群51名の2群に分割し,日本語版mGESの群間差をt検定にて検討した。日本語版mGESと各運動機能項目との関連をPearson相関係数検定にて分析した。有意水準はすべて5%とした。【結果】日本語版mGESの得点は,転倒あり群(84.1±18.9点),転倒なし群(82.7±16.3点)であり有意差はなかった。一方,転倒不安では不安あり群(75.8±17.8点),不安なし群(85.7±15.6点)であり有意な差を認めた(p=0.03)。日本語版mGESと有意な相関関係を認めた変数は,TUG(r=-0.58,p<0.001)のみであった。【結論】日本語版mGESは転倒の有無による差を示さなかった。一方,転倒不安の有無では有意差があり,牧迫らが示した転倒恐怖感と日本語版mGESの関連を支持する。日本語版mGESは対象者の心理状態を反映する指標であり,同じく心理状態を反映する転倒不安との関連を示したと考えられる。TUGとの有意な相関は,日本語版mGESが歩行機能と関連することを示す。以上のことから,日本語版mGESは歩行機能との関連が示唆され,歩行に対する心理状態を定量的に評価するうえで,介護予防において有用な指標となると考えられる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2015 (0), 1502-, 2016
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205579333120
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- NII論文ID
- 130005418512
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可