変形性膝関節症患者はどの筋を使って立脚初期に膝を伸展させているのか

DOI
  • 小栢 進也
    大阪府立大学地域保健学域総合リハビリテーション学類理学療法学専攻
  • 久保田 良
    関西医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 中條 雄太
    関西医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 廣岡 英子
    関西医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 金 光浩
    関西医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 長谷 公隆
    関西医科大学附属病院リハビリテーション科

抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>膝を伸展させる代表的な筋は大腿四頭筋であるが,足や股関節の筋は下腿や大腿の動きを介して膝を伸展できる。このため,ヒトの多関節運動においては膝関節以外の筋も膝伸展運動に関与する。変形性膝関節症(膝OA)患者は立脚初期の膝伸展モーメント低下が報告されており,大腿四頭筋の膝伸展作用が低下している。しかし,膝OA患者は大腿四頭筋以外のどの筋で膝伸展作用を代償しているのか明らかではない。筋骨格シミュレーションによる順動力学解析は筋張力と関節角加速度の関係性を計算式により算出することで,膝伸展運動における筋の貢献度を調べることができる。そこで,本研究では膝OA患者の歩行分析から,筋が生み出す膝関節角加速度を調べ,膝伸展に貢献する筋を調べる。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は膝OA患者18名(72.2±7.0歳),健常高齢者10名(70.5±6.7歳)とした。被験者の体表に18個のマーカーを貼り,三次元動作分析システム(3DMA-3000)およびフォースプレートを用いて歩行動作を測定した。マーカーの位置情報には6Hzのローパスフィルターを適用した。次に,OpenSimを用いて順動力学筋骨格シミュレーション解析を行った。8セグメント,7関節,92筋のモデルを使用した。解析はモデルを被験者の体に合わせるスケーリング,モデルと運動の力学的一致度を高めるResidual Reduction Algorithm,筋張力によってモデルを動かすComputed Muscle Controlを順に行い,歩行中の筋張力を計算式により求めた。さらに各筋の張力と膝関節角加速度の関係性を調べるためInduced Acceleration Analysisを用いた。データは立脚期を100%SP(Stance Phase)として正規化し,立脚初期(0-15%SP)での各筋が生み出す平均膝伸展角加速度を求めた。統計解析には歩行速度を共変量とした共分散分析を用い,筋張力と筋が生み出す膝伸展加速度を膝OA患者と健常高齢者で比較した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>0-15%SPの張力は大腿広筋,足背屈筋群,ひらめ筋,腓腹筋で膝OA患者が健常高齢者より有意に低く,股内転筋群で有意に高い値を示した。膝伸展角加速度の解析では大腿四頭筋(膝OA患者2656±705°/sec2,健常高齢者3904±652°/sec2),足背屈筋群(膝OA患者-5318±3251°/sec2,健常高齢者-10362±4902°/sec2),ヒラメ筋(膝OA患者1285±1689°/sec2,健常高齢者3863±3414°/sec2),股内転筋群(膝OA患者1680±1214°/sec2,健常高齢者1318±532°/sec2)で有意差を認めた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>膝OA患者と健常高齢者では大腿四頭筋と足背屈筋群に大きな差を認めた。膝OA患者は立脚初期の大腿四頭筋の発揮張力低下により膝伸展作用が低下する一方で,前脛骨筋を含む足背屈筋群の発揮張力を減少させ,その膝屈曲作用を低下させている。足背屈筋群は下腿を前傾することで膝を屈曲させるため,膝OA患者は足背屈筋群の張力発揮を抑えて立脚初期に膝屈曲が生じない代償パターンにて歩行していることが明らかとなった。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205580179840
  • NII論文ID
    130005608080
  • DOI
    10.14900/cjpt.2016.0051
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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