甲府花崗岩体のペグマタイトと熱水脈に含まれる流体包有物の金属元素濃度

書誌事項

タイトル別名
  • Trace element concentrations of single fluid inclusions in quartz from a granitic pegmatite and hydrothermal veins related to the Kofu granite body

説明

ペグマタイトや熱水脈の流体包有物の元素濃度は、花崗岩起源流体に関連した鉱床形成や元素運搬に関する直接的な情報を与える。そのため、個々の脈の流体包有物の元素分析については既に多くの研究があるが、ペグマタイトから熱水脈・熱水鉱床への移行過程での花崗岩起源流体の組成変化を追跡した研究は少ない。そこで今回は、花崗岩起源流体と熱水鉱床の関係を明らかにするため、甲府花崗岩体周囲のペグマタイトと熱水脈に含まれる流体包有物の金属元素濃度をPIXE (粒子線励起X線分析法)によって分析し、その移行過程での運搬元素の濃度と種類がどのように変化するかを検討した。 試料には、山梨県甲府市黒平のペグマタイト脈、甲府市水晶峠の熱水石英脈、長野県川上村川端下の石英脈からの単結晶石英を用いた。これらの脈は、甲府花崗岩体に関連した一連の熱水活動により形成したもので、川端下の石英脈は甲武信鉱山の銅—鉄鉱床の鉱化作用と関係している。黒平の石英は気泡と液体からなる2相包有物を含み、その均質化温度は320-330度である。水晶峠の石英は、気泡と液体からなる2相包有物と気泡と液体と岩塩結晶からなる3相包有物を含み、2相包有物の均質化温度は380-480度、3相包有物の均質化温度は370-420度、3相包有物の塩濃度は31%である。川端下の石英は、気泡と液体と岩塩結晶からなる3相包有物を多数含み、気泡の割合が高い2相包有物を少量含む。2相包有物の均質化温度は360℃、3相包有物の均質化温度は350-400度、3相包有物の塩濃度は30-38%である。分析は、筑波大学加速器センターの4 MeV プロトンビームを用いて行った。この分析条件では、流体包有物中のCaを相対誤差33%、Feを9%、Znを6%、Srを5%、BrとRb を4%の相対誤差で定量できる。また、検出限界は、原子番号や包有物のサイズなどにも依存するが、原子番号25-50の元素に対して4-46ppmである。 定量の結果、黒平の流体包有物には200 ppm の Fe、150-500 ppm のCu、 150-250 ppm のGe、20-100 ppm の Br, Rb, Pb が含まれていた。水晶峠の包有物には、900 ppm のFe、2300 ppm の Mn、250-400 ppm のCu、120 ppm のGe、10-350 ppm の Br, Rb, Sr, Zn, Pbが含まれていた。また、川端下の包有物には0.2-9 wt% のCaと Fe, 300-8000 ppm の Mn と Zn、 40-3000 ppm の Cu、100-4000 ppm の Br, Rb, Sr, Pb, そして100 ppm 以下のGeが含まれていた。これらの元素種と濃度範囲は、世界各地の花崗岩起源脈から報告された値とほぼ一致する。また、流体包有物からのGeの検出は初めての報告となる。Mn, Fe, Cu, Pb, Zn, Rb, Sr, Br濃度は、ペグマタイトから熱水脈になるにつれて増加しているが、Ge濃度は減少している。ペグマタイトよりも熱水脈の包有物の方が塩濃度が高いので、これらの結果は、Geを除く金属元素濃度は流体の塩濃度と共に増加するという傾向を示すものと考えられる。熱水脈の包有物の高い均質化温度を考慮すると、その傾向は、おそらくペグマタイト形成後に生じた花崗岩流体の沸騰現象に関係すると考えられる。沸騰により生じた高塩濃度・高金属元素濃度流体に対し、天水による希釈の割合が小さければ金属鉱床形成につながる可能性がある。今後、この高金属元素濃度流体と甲武信鉱山の鉱化作用の関係について検討する予定である。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205590551808
  • NII論文ID
    130006960851
  • DOI
    10.14824/jampeg.2003.0.16.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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