戦後初期学校放送「家庭科学」にみる家庭生活の民主化

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書誌事項

タイトル別名
  • Democratization of family life in "Domestic Science" of broadcasting program for school education in the early days of post world war _II_
  • 和田精『劇で学ぶ家庭科 明るいわが家』の検討

抄録

目的<BR>  戦後新たに設けられた家庭科には、人間らしい生活の実現に向けたひとつの要件となる家庭生活の民主化にかかわる教育が要請された。家庭生活の民主化にかかわる先駆的研究・実践として、浦辺史「家庭科教科書の新しい構想」(『あかるい教育』1948年4月)、城戸幡太郎編『わたしたちの生活設計(家庭生活中心)1-3』(日本書籍、1954年)に代表される城戸の一連の業績がある。<BR>  このような取り組みがなされる一方には、1947年版学習指導要領家庭編(試案)に基づく教科書の発行がある。1947年版学習指導要領一般編(試案)において、新教科として位置づけられた家庭科は、文部省を中心とした日本側関係者とアメリカ側関係者であるCIE教育課担当官の異なる見解が絡まりあう中で誕生し、教科書が作成された経緯を有する。家庭科は、「家庭生活の民主化」を教科の目標として掲げて出発する。ところが、「家庭生活の民主化」を教育内容としてどのように具体化し、いかに実践化するかは、家庭科の成立過程における日米の異なる見解に加え、戦前期の生活や社会等にかかわる価値観や慣習などの残渣、戦後のきびしい生活現実などが複雑に絡まりあい、混乱と困難をきわめる実情におかれていた。そのような状況下にあって、戦後まもなくの1947年、学校放送という放送教育が全国放送として展開する。まず手始めに、学校放送の全番組は社会科が開始(1947年9~12月)、次いで1948年には、重要教科番組として科学(1948年1~3月)と家庭科学(1948年4~7月)が放送され、同年9月には各教科にわたる番組が放送されるようになる。家庭科学の学校放送は、放送番組が好評を博したことから、放送台本が基になり、『劇で学ぶ家庭科 明るいわが家』(和田精著・羽室邦彦絵、日本放送協会編集、萬世書房、1949年、全234頁。以下:明るいわが家と記す)として、1949年に出版されている。同書は13篇の小戯曲で構成され、放送後は家庭科の課外よみものとして活用された。<BR>  「家庭科学」の学校放送および『明るいわが家』は、浦辺や城戸の家庭科構想に時期的に先行するもので、戦後初期家庭科実践史研究において分析対象として未着手の資料である。また、同資料に着目した理由として、1)戦後初期の家庭科構想を探る具体的事例であること、2)「家庭生活の民主化」にたいする日米の見解が、1話の小戯曲および全13篇で構成される台本の中に反映していること、3)家庭生活の総合性を劇という総合性を有する方法を用いた内容構成の試みであること等が挙げられる。<BR>  本報告では、『明るいわが家』の概略を整理し、内容構成の概要について紹介し、その特徴を検討する。<BR> 方法<BR>  文献研究による。<BR> 結果<BR> 1)和田精と放送劇<BR>  学校放送「家庭科学」の台本作家で、『明るいわが家』の著者である和田精(1893-1970)は、日本最初となる新劇のための専門劇場である築地小劇場の創立同人の一人として参加し、舞台照明、舞台効果部門の確立に努め、放送演出、音響効果の創始者として評されている。演劇に新たに「効果」を導入し位置づけることを通して、新たな演劇の可能性や従来の演劇の再構成などを探究し、演劇の側から科学の大衆化や生活の大衆化が目指される。<BR> 2)『劇で学ぶ家庭科 明るいわが家』の概略<BR>  『明るいわが家』は、「目次」「題目と梗概」に続き13の題目の小戯曲をもって構成され、登場人物の名前と話し言葉による台詞、音楽、効果音などが台本形式で記述されている。各戯曲は、第九学年に進級した松本経子を中心として、経子の家族や親戚近隣の日常生活の場を舞台に生起する様々な状況や問題を取り上げ、会話や場面を通して現実や状況の理解が目指される。<BR>  内容構成の特徴として、「生活の科学化」と「生活の共同化」を柱として、「生活の合理化」「生活の計画化」「生活の社会化」を関連づけ、「生活の民主化」の認識へ総合化する試みを指摘できる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205592000128
  • NII論文ID
    130006961025
  • DOI
    10.11549/jhee.50.0.1.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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