北京什刹海地区におけるフートンの観光活用

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タイトル別名
  • A Study on the Tourist Use of Historical Streets of 'Hutong' in Shichahai, Beijing

抄録

2008年のオリンピック開催を契機に、市内のいたるところで建設ラッシュが続く中国の首都北京では、数年前から超高層建築物が各所に建ち、現在も多数建設中である。その一方で、北京中心地には古くからの歴史的町並みがある。それがフートン(hu- tong、胡同)であり、日本の「○○街」に相当する。古き良き時代の北京の町並みを留めたこのフートンは、再開発が進むにつれて北京から姿を消しつつあるが、近年その文化的、観光的価値が高まりつつある。フートンの保護地区は、観光地として国内外からの観光客に人気があり、三輪車(自転車タクシー)でのフートンめぐりは、北京の観光名物となっている。  本研究は、北京の歴史的町並みフートンの観光活用について、その現状と課題を明らかにすることを目的とした。  元・明・清の3王朝の都であった北京の町並みは、「牛の毛の数ほどある」と形容されたフートンで形成されている。1949年の中国建国後は、人口増加により、元の時代の規定による幅員ではなく、縮小して方向も変わったフートンが形成された。フートンの数量は最も多かった1949年の3,073条から2005年には1,353条に減少した。四合院は、フートンに面して中庭を囲むように東西南北に棟が配置されている平屋の伝統的建物である。文化大革命によって本格的に個人住宅が没収され、住宅不足を解消するため、四合院の中庭にも簡易な住宅が建てられ、十数世帯が雑居するようになった。現在の四合院の大部分は、このような大雑院に変化したのである。2002年に什刹海地区が歴史文化保護区に指定されると、西城区政府は煙袋斜街の伝統的町並みを復活させるため、什刹海煙袋斜街の特色ある商店街建設計画をたてた。この計画の実施によって、整備以前の煙袋斜街には34軒(2001年)の店舗があったが、整備後は69軒(2009年)に倍増した。  建国後の経済発展に伴い、北京の人口は急増し四合院の中庭に簡易な住宅が建てられた。特に旧城の四合院は老朽化が激しく、居住人口の多さから環境悪化が著しい状態にある。このように、都市住民の生活水準が高くなるにつれて、北京の伝統的な四合院の機能は、現代社会の生活に対応できなくなった。そこで、1979年の改革開放政策以後、北京の再開発が本格的に行われるようになった。一方で、乱開発を防ぐための法律も制定された。また、住民の保存活動については、華新民らの保存活動を通して賛同する人が増え、住民の保護意識が高まるようになったのである。  什刹海地区の面積は5.8k_m2_であり、そこには大小2,000戸の四合院と90条のフートンがある。観光名所は国家級文物保護単位3カ所、市級文物保護単位11カ所、区級文物保護単位17カ所がある。  四合院の見学施設および宿泊施設の実態についてみると、観光客は、5月~9月の夏季に多く訪れる。四合院の建物とフートンの町並みは,文化財としての価値に加え,観光資源としても有効に活用されているのである。1998年からは観光客数が毎年30%増えている。そのため、フートンめぐり会社は2009年の18社に増え、経営形態は単なるフートンめぐりから宿泊施設やレストランなど多角経営を行うようになった。  什刹海地区の観光客の特性をアンケート調査結果(回答数202人、2008年9月筆者調査)より分析すると、女性の観光客は55%で男性よりやや多く、しかも10代と20代の若年齢層が68%を占める。また、地元北京市出身の観光客も全体の61%を占める。さらには、再来訪希望者が多いことや、来訪目的の内容から、什刹海地区のフートンの町並み景観や歴史・文化学習が観光客を魅了していることがわかる。つまり、什刹海地区は全体的に評価が高い観光地であるといえる。しかし、休憩所・トイレ・案内板などのサービス施設を充実させることや、四合院の建物の原形を保ち改築を少なくするなどの意見が出されている。このことは、フートンめぐり観光の発展にとって重要であると考える。  以上のことから、近年、残存する一部のフートンは文化財としての価値に加え、観光資源としても高く評価されるようになり、国内外から多数の観光客が訪れていることが実証された。しかし、フートンの観光活用を発展させるためには、地域住民の居住環境整備と観光開発の調和が課題であるといえる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205592850048
  • NII論文ID
    130005020990
  • DOI
    10.11518/hgeog.2010.0.25.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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