都市開発地域におけるアメニティとしての竹林の保全方法に関する研究

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タイトル別名
  • Research for the preservation of bamboo forest as the amenity in urban development area:
  • The case of Nagaokakyo City in Kyoto Prefecture
  • ―京都府長岡京市を対象として―

抄録

1.背景・論点 生活水準の向上に伴い人々の居住環境への関心が物的充足から精神的満足へと変容しつつあり,環境の質が求められてきている。こういった背景から,今日アメニティという言葉が注目されている。アメニティは,音環境やバリアフリーなど多様な局面で活用されているが,その中でも,特に地域独特の自然環境を利用したアメニティ形成が注目され,『環境白書』でもその重要性が述べられている。 都市開発により居住地に対する愛着意識が異なる新来の移住者が多い地域では,共通のアメニティ形成は難しく,重大な課題である。よって,新来・旧来住民の両者にとってのアメニティとして存在しうるような,自然環境の保全方法が必要とされ,またそのことが地域社会の持続的発展につながると考えられる。  地域独特の自然環境とは,重要文化的景観に指定された滋賀県近江八幡市の水郷景観や,岩手県一関市の農村景観,または森林や河川などさまざまである。こういった自然環境の保全については多方面で研究が進められており,広く認知されている。しかし,農業地でもあり,林業地でもある竹林に関しての保全方法の研究は少なく,まだまだ不十分であるのが現状である。 2.研究方法 2-1 調査方法 まず,時期別に都市開発や竹林保全の方法を文献・ヒアリングによって調査する。次に新来住民と旧来住民のアメニティ意識,竹林に関する意識の違いをアンケートにより探り,比較検討する。そのアンケートの結果を元に竹林保全活動を通しての新旧住民のアメニティ形成方法を考察し,これからの持続的な竹林保全のあり方を提言したい。 2-2 調査対象地域 調査対象地域は京都府長岡京市とする。本市では高度経済成長期から現在にかけて飛躍的に都市化が進んだ地域であり,現在でも都市開発は進んでいる。 また,長岡京市は昔から竹林の名所として著名な地域であるが,現在では都市開発や竹材の需要の減少,後継者不足により荒廃がすすんでいる。その一方で、市民の多くが市の緑のイメージとして「竹」を掲げており,市民による環境保全ボランティア活動も盛んな地域である。また,まだ初期段階ではあるが,企業・市民・行政・学術研究機関による竹林保全を行うための体制が整っているという理由から,先進的な竹林保全地域として調査対象事例を選定した。 3.アンケート調査 本研究では,旧来住民と新来住民の竹林価値意識の比較,アメニティ意識の比較を行うためのアンケート調査を行った。調査票の全返信数は197通,回収率24.6%となり,地域ごとの回収率は南西部が28.4%で最も高く,西部28.1%,北西部25%,南中部24.7%,北中部21.9%,東部が18.2%という結果になった。これにより,市街地に近い地域ほど竹林調査への関心が低かったと言える。 3-1竹林に関する質問 竹林知識を問う質問では回答者の97%が長岡京市は竹林で著名だということを知っていた。しかし,放置竹林などの問題に関しては,「知っている」が19.46%,「知っているが詳しくは知らない」が48.11%,「知らない」が35.16%であった。またボランティア活動に関しては「知っているが詳しくは知らない」が42.93%,「知らない」が46.74%,西山森林協議会の活動に関しては「知っているが詳しくは知らない」が27.17%,「知らない」が65.76%となり,長岡京市の実際の竹林の現状を知る人が少ないと言える。 3-2アメニティに関する質問  アメニティ意識を問う質問に関して,質問1)の都市・生活環境の快適さや安らぎのアメニティ要素を問う質問では「近隣に自然が多い」が最も多く,質問2)の近隣の教育・文化・趣味に関連した施設・サービスの充実度では,「近くに自然と触れ合える場所がある」が最も多かった。両質問とも「自然」というアメニティ要素が最も重要であるという結果となった。また,質問4)のアメニティ項目の質問では,旧来住民ほど「自然環境の安らぎや潤い」への関心が高かった。また,「生活における交通の利便性」において新来住民の関心が最も高いという結果になった。 4.まとめ  長岡京市の竹林保全は筍生産の伝統やボランティア活動の積極性などからアメニティ意識の形成において,先進的な事例であるといえる。しかし居住歴や居住環境への関心の違いから,必ずしも多くの居住者にとって満足できるような竹林保全方法が整備されているわけではない。今後はアンケート調査でも用いたCVMによるWTPを問うことによって,居住者の環境への価値意識を確かめ,環境保全政策の指針とすることが必要となるであろう。長岡京市は郊外住宅地であり工業地域や農地・山地も含まれるため,今回の調査からは他地域においても参照可能な多くの知見が得られたと考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205593240320
  • NII論文ID
    130004596650
  • DOI
    10.11518/hgeog.2007.0.602.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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