古都京都における歴史的景観保全の社会経済評価

書誌事項

タイトル別名
  • Economic evaluation for benefits of historic landscape conservation in the ancient capital of Kyoto:
  • Analysis of willingness to pay and contingent behaviour
  • ―支払意思額と仮想行動の分析―

説明

I はじめに<BR>  現在,地域住民や地方自治体,日本政府による様々な取り組みにより,日本各地において歴史的景観の保全が図られている。これらの歴史的景観は所与の自然環境のもとで築き上げられた人間活動の所産であり,文化財に指定されている伝統的建造物や史跡のみならず,文化財に指定されていない建造物や民家建築,町割など,多様な景観要素によって構成されている。しかし,これら歴史的景観は,現在においても開発と保全との狭間に置かれ,しばしば利害関係者の間で紛争の対象となっている。これは,歴史的景観が公共財としての側面を持つと同時に景観を構成する要素の多くが私的財であり,歴史的景観の維持や改変が誰にとってどの様な価値を有するのかを明示しにくく,地方自治体や政府が支援する景観保全政策の推進に際しても,どの程度の財政支援を行うのが妥当かを示しにくいことに起因する。この問題を考えるべく,本研究では歴史的景観を保全することで生まれる効果を地域住民と観光客の視点の双方から社会経済的に評価することを目的とする。<BR> <BR> II 分析資料<BR>  本研究では,歴史的建築物の保全や建築物のデザイン改修による歴史的景観保全に関する意識調査を実施した。具体的には,_丸1_京都市内在住者に対しては歴史的景観整備に関する支払意思額(WTP),_丸2_京都市外在住者に対しては歴史的景観が整備された場合に京都を訪問する仮想行動(CB)を質問し,歴史的景観保全の便益を2種類の評価測度で計測した変数を準備した。本調査では,20歳以上のYahoo!リサーチ登録モニターに対するインターネット調査を実施した。本調査では,2005年国勢調査における20歳以上人口の,性別,年齢階級,居住地域を考慮し,2007年2月8日時点のYahoo!リサーチ登録モニターから系統抽出法により3,945名(京都市内=698名,京都市外の全国=3,247名)の計画標本を抽出した。未達数が3通のため有効発信数は3,942通である(有効回答率=48.5%)。アンケート調査は,2007年2月8日~13日にかけて実施した。<BR> <BR> III 結果<BR>  本研究では,地理的な変数に着目して京都市内在住者によるWTPや京都市外在住者によるCBの分析を試みたが,それぞれの変数と地理的な変数との単純な2変量間の関係においては有意な関連性は確認できなかった。この点に関しては,WTP関数や訪問頻度関数の推定において,WTPやCBに与える被験者の居住地や社会経済属性の影響を同時に考慮した回帰分析に取り組む必要がある。また,訪問拒否に着目した分析からは,やむを得ない理由で訪問を拒否した理由には,金銭的な理由で訪問拒否した回答の割合が京都市からの距離に正比例しているのに対し,時間的制約を理由に訪問を拒否した回答の割合は京都市からの距離に反比例している傾向が確認された。このことは,京都市から遠くに居住する者は金銭的な問題が解消されたら訪問の意思を表明することを示しており,当該地域においては家計の消費を刺激する経済政策により潜在的な需要を見出せる。一方で,京都市に相対的に近くに居住する者は,時間的な問題が解消された場合の潜在的訪問者である。比較的近距離の観光需要の喚起には,長期連続休暇制度の確立や有休休暇の消化促進などに向けた政策立案が望まれよう。<BR>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205593338240
  • NII論文ID
    130005020941
  • DOI
    10.11518/hgeog.2008.0.312.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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