わが国におけるバブル崩壊後の居住地域構造の変容

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タイトル別名
  • Transitions of residential structure after the Bubble Boom in Japan

抄録

わが国は,1980年代後半のバブル景気によって土地の所有関係が一層複雑化したうえに,1990年代初頭のバブル崩壊後は,土地市場が長期にわたり低迷し,土地評価や土地の概念が大きく変化した。このような変化は,居住地や家屋に対する考え方にも多大な影響を及ぼしていると考えられる。また,少子化による国内人口の伸び悩みや高齢者福祉への対応といった問題も顕在化している。都市域はもちろん農村域をも含めた全国的な居住地域構造の再編が現在進行中であると言える。<BR>  そこで,本研究では,バブル崩壊後の居住地域構造の変化を全国的な視点から把握するとともに,特徴的な変化を示す地域を導出し,その要因を明らかにすることを目的とする。<BR>  住宅着工統計のデータから,新設住宅の建築戸数の推移を見ると,分譲住宅の新設戸数の割合が20%を超えるのは,高度経済成長期後のことでありバブル崩壊後は,持家の新設割合が低下していく中で分譲住宅の新設割合が上昇した。2006年時点での持家,貸家,給与住宅,分譲住宅の新設戸数の割合は,それぞれ27.8%,42.1%,0.7%,29.4%となっている。分譲住宅による住宅の大量販売が全国的に定着していく様子は,総床面積の推移にも顕著に現れる。全新設住宅に占める分譲住宅の総床面積の割合は,高度経済成長期に上昇し始め,安定成長期からバブル期まで20%台で推移していたが,バブル崩壊後,徐々に上昇し,2006年には32.6%に達した。また,分譲住宅1戸当たりの平均床面積は,1992年に90_m2_を超え,2001年には全体平均を上回るようになった。分譲住宅は,供給量の増加に伴い,1戸当たりの居住面積を増大させる傾向にあり,それは同住宅の質的向上を裏付ける。<BR>  バブル崩壊後における住宅建設の特徴は,分譲住宅の量的・質的上昇にあると指摘できる。そこで,都道府県別に分譲住宅の総床面積の推移を見ると,2006年時点で全国平均を上回る上昇を示しているのは,千葉県(53.6%),大阪府(52.0%),神奈川県(51.7%),東京都(51.4%),兵庫県(47.4%),埼玉県(44.4%),奈良県(41.4%),京都府(40.2%),広島県(36.6%)であることが分かる。上記9都府県について,分譲住宅から分譲戸建住宅とマンションを抜き出し,それぞれの都府県別に新設住宅に占める両者の総床面積の推移を見ると,京都府,奈良県,埼玉県では分譲戸建住宅の新設割合が増加しているのに対し(戸建卓越型),千葉県,広島県ではマンションの新設割合が増加する傾向にある(マンション卓越型)。また,東京都,神奈川県,大阪府,兵庫県は,両者の新設割合がいずれも増加している(同時進行型)。両者の間に若干の連動が指摘できる県もあるが,全体を通してみると,分譲戸建住宅の新設が増加するとマンションの新設割合が低下する(あるいはその逆)といった関係は見られない。住宅供給における戸建住宅とマンションとの二分化が進行中であると言える。<BR>  分譲住宅の建設は大規模な土地利用改変を伴う場合が多く,居住地域構造にも多大な影響を及ぼす。戦後,分譲住宅の新設割合が上昇したのは,高度経済成長期とバブル崩壊後であり,それぞれの時期において居住地域構造は大きく変化したと考えられる。しかし,高度経済成長期における分譲住宅建設は,全国的なインフラ整備と都市人口の増加を背景にして進行したのに対し,バブル崩壊後のそれは景気の低迷と都市人口の滞留の中で進行した。そのため,バブル崩壊後の住宅供給は,限定的な住宅需要者の個々の需要に対応することで,購買意欲を高める必要があった。マンションと分譲戸建住宅の双方が並行して建設されているのも,住居選択の幅が拡大している一つと現れとして解釈できる。<BR>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205593356544
  • NII論文ID
    130005020935
  • DOI
    10.11518/hgeog.2008.0.306.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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